スラムの飲み屋で昔の仲間に秘密を話してしまう男
久しぶりに馴染みがやっているパブに入る。
昔から、何かあるとここで仲間たちと会議したり、デカい仕事の打ち上げをしたり、思い出の詰まった店だ。
ボロい入り口をくぐると、チンピラやら闇市の商人やらで賑わっている。
そこに見知った顔がいた。
ーーーペイジだ。
知らんチンピラ5人くらいとビールを飲んでいる。
会ったのはこの前、ネジ工場の初給料で飲んだ以来だが、相変わらずここで飲んだくれているようだ。
「よう、ペイジ」
「ん?ああ、カイさん。久しぶりですね。あ、お前ら、こちらがカイさん」
「………っす」
「…………」
皆、言葉少なに軽く会釈した。
「相変わらずここで飲んでんだな」
「……。まぁ俺らはカイさんと違って何も変わってないですから」
俺はペイジの目の前に腰掛けた。
「確かに俺は変わったかもしれねぇが、そんな良いことばかりじゃねぇよ」
「最近は何を?ネジ工場で働いてるんじゃないんで?」
「ああ。そうなんだが……」
俺は少し迷ったが、信頼できる仲間だから、オリヴィアのことを打ち明けることにした。
「実は、ここだけの話なんだが……。レスター卿の令嬢を俺が匿っている」
「な、なんですって!?」
「ん?レスター卿のこと知ってるのか?」
「い、いや!!……え、ええ。噂程度ですが。領地の民が反乱を起こしたとか……」
急に大声を出したペイジだったが、すぐに冷静になったようだった。
「ああ。すぐキレるおせっかいな嬢ちゃんなんだが、今の俺の仕事はそいつを護衛することなんだ」
「そ、そうでしたか……」
ペイジは何やら興奮を抑えきれない様子で、何かを堪えるように、少し片頬がピクピクと動いていた。
どうやら俺の話が相当刺激的だったらしい。
まぁ、いつも変わり映えのしない生活をしていれば、多少のスパイスは欲しくなるものだ。
だから俺は嬉しくなって、もっと刺激を与えたくなった。
「まぁ、今俺の家にいるんだけどよ。ずっと身を隠してたから、多分、反乱軍も諦めたんじゃねーかなと思う」
「カイさんの家に……。クク、そうですか。それはヤバい経験してますねぇ」
「まぁ、面倒事を押し付けられただけだけどな。今日はめんどくせーから「黙って待ってろ」っつって、飲みに来てやったぜ」
俺は照れ隠しでちょっぴりワイルド風の嘘をついた。
「じゃあ、今は1人で?」
「ああ。寂しく待ってるだろうぜ」
俺はビールをグイッと飲んだ。
「なら、早く厄介ごとが終わるといいですね」
「ほんとだぜ」
俺は鼻で笑った。
その時俺は、同じテーブルにいたはずのペイジの取り巻きが3〜4人消えていたことに気づかなかった。
「うっぷ。飲みすぎた……。じゃあ俺はそろそろ行くぜ。ペイジ、今日の払いは俺にツケといてくれ」
「ごちそうさんです。ククク」
そう言ってペイジは手を上げて俺を見送った。
飲みに来て3時間くらい経っただろうか。
辺りはすっかり暗くなっていた。
「結局オリヴィアのこと、だいぶ待たせちまったな……」
昼間より少し肌寒くなった空気を吸い込みながら、俺は駆け足で家へ向かった。
ーーーそして、最悪の光景を目の当たりにしたのだった。




