チンピラ、初給料をもらう
それからは、ひたすらネジを作る日々。
最初は新品のネジをこぼしたり、素材の配分を間違えたりして、その度にシャッター外まで吹っ飛ばされていたが、1ヶ月も経つとだいぶ慣れてきた。
「ふん。だいぶ手慣れてきたじゃねェか」
「話しかけんな。気が散る」
「けっ。そう言う頃合いが一番ケガしやすいから気をつけ……」
「あぢぢぢぢぢ!!!」
スピードを重視し過ぎて、グローブを忘れ、熱したネジを素手で受けてしまった。
「ガハハハハ!言わんこっちゃねェ!」
「あぢぢぢぢぢ、ぢーーー!!」
そして、思いっきり手を振ると、熱で溶けたネジがジョージに飛んでいった。
そして、額にピト、とくっついた。
「あぢぢぢぢぢーーー!!!?」
「ギャハハハ!ざまあみろ!!ははははは!」
「何やってんだよ所長とジョウチンはよぉ!」
そこに悲鳴を聞きつけたベテラン従業員のボブが駆けつけて来た。
「あぢぢぢぢぢ、ぢーーー!!」
ジョージが額から熱々のネジを弾き飛ばすと、ボブの左腕にピトリと付いた。
「あぢぢぢぢぢぢぢーーーー!!」
「ガハハハハハハ!!!」
「ギャハハハハハ!!!」
全員、何かしらスネに傷を持つ連中が、ここではジョージの剛腕によってひとつにされている。
本当なら俺と同じく、腐ってもおかしくないような奴らが、ここでは生き生きと働いて、ゲラゲラ幸せそうに笑っていた。
そういう俺も取り巻きといる時すらほとんど笑わなかったくせに、ここでは思わず笑っちまってる。
(あぁ。これは……)
俺の人生では決して味わうことがないと思っていた、喜びと楽しいという感情。
俺は、心からこの職場が楽しかった。
「おう、そうだ。カイ。おめー、今日で1ヶ月になるぜ」
「あ?ああ。もうそんな経つのか。時間の感覚が無かった」
「夢中になり過ぎて、か?それとも楽しくなっちまってんのかァ?」
「ふん。そんな訳ねーだろ。冗談はてめーがうんこした後のトイレの臭いだけにしとけ」
「は、早く入り過ぎなんだよ!!」
「でも1ヶ月ってことは……」
「ちっ。お祝いの気持ちが失せちまったぜ。ほらよ」
そう言うとジョージは、俺に布袋を投げつけた。
慌てて受け取ると、中からジャラッと硬貨の音がした。
「うわっ……。こんなに……」
包みはとても重たかった。
日雇いの仕事しかしてこなかった俺にとっては、初めての大金。
嬉しくて、思わず顔がニヤケそうになって慌ててキリッとした表情に戻した。
「初給料だボケナス。引き続き社畜として働いてもらうから覚悟しとけやァ」
ジョージはゲラゲラ笑うとそのまま所長室へ戻っていった。
(な、何に使うか悩むな……)
今までは飯、酒以外に使える金などほとんど無かった。
だから、何かを買う、という選択肢自体が無かったが、ここにきてその選択肢が入ってくる。
しかし、『何を買う?』と問われると、すぐには出てこなかった。
とりあえず今日はいつもついて来てくれる取り巻きたちと祝杯をあげようと決めた。
「でよぉ、その暴力所長が昨日も新人をぶっ飛ばしてよぉ!死人が出てないのがおかしいくらいだっつーの!ギャハハ!」
「へー。そりゃヤバいっすね」
俺は酒場で取り巻きたちにネジ工場のエピソードを喋りまくっていた。
今日は初給料も入ったため、気持ちもでかくなる。
すでに5杯目のビールを飲み干すと、俺は仕事について語り始めた。
「いや、なんだかんだ言ってたが、やってみるとネジ工場も案外悪くなくてよ。意外だったぜ」
「へー。まぁそりゃ、そんだけ良い給料も貰えてりゃあね」
「え?ああ。まぁそれもそうなんだけど、ひとつの仕事に熱中できるっつーか?意外と奥が深いんだよ」
「へー」
一番最近つるむようになった取り巻きのペイジがつまらなそうに相槌を打つ。
「まぁお前らもぐだぐだやってないで、ひとつの仕事に集中してみるのも悪くないかもしれないぜ」
どの口が、と言われそうだが、本気で思ったので、こいつらには伝えておこうと思った。
「………。っぜ」
「え?なんだって?」
「いや、何でも。変わりましたね。カイさん。もう俺らとは違う世界に行っちまったみてえだ」
「何言ってんだよ。ダチに世界もクソもねぇ。俺らには辛いことも一緒にやってきた絆があるじゃねーか」
「絆……ねぇ」
歯切れの悪い返答だったが、この日の俺は全く気にしていなかった。




