母親との最期の会話
床にはドクドクと血が流れ、土に広がっていく。
「カ…イ……。よ、かっ………た」
母親は笑顔になった。
笑顔なのだから、きっと大丈夫。
その時、俺はなぜかそう思った。
「ま、待ってて!」
俺はお母さんの体の下から這い出るとお母さんの上に乗っている鉄やら機材やらを降ろしていく。
だけど、棚だけはどうしても動かせなかった。
そして、棒状の形をした鉄骨。
それがお母さんのお腹に上から突き刺さっている。
「い、今、他の人、呼んでくるから!」
「カ、イ……ま…って……」
母親に優しく止められる。
「お、お母さん……」
「カ……イ。よく……聞い……て」
「うん……」
「お母……さん……の……つく……えの…引き出し……。そこに……ある…もの…を、ぜん……ぶ、ミランダ叔母さんに……渡し…て」
「え?な、なに言ってるの?」
「カ……イの……ため……溜め…たお金……入って……るから…」
「お母さん…!やだ!!死なないで!!」
ーーー子供ながらに、母親の死を悟った。
「カ…イ……。もっ……と、お…花……のこと……教え…て……あげら…れな……く…て……ごめ…ん……ね」
「いやだ!!お願いお母さん!!お、俺、今日だって、これ、頑張って取ったんだよ!!お母さんにあげようと思って!!」
そう言って赤い花を見せた。
言いながら、涙が止まらない。
ポロポロと次から次へと溢れ出し、血溜まりに落ちる。
「わぁ……。大きい…お花……。すご…い…ねぇ。カイ……あり…が…とう」
「お母さん!!」
「だい…すき………………」
母親はそれっきり喋らなくなった。
「うわぁああああああ!!!」
母親の亡骸に顔を擦り付け、夜通し泣いた。
次の日の朝、工場の前を通りかかった人が俺の声に気づき、2人は発見された。
その日から、俺の人生は180度変わったのだった。
貴族街の書店の前で思い出したくもない過去を思い出してしまった。
本は好きだが、本を見ると母親を思い出してしまうというジレンマ。
だから『本を読んでみたい』という誘惑を慌てて振り払う。
(俺が本なんて……。どうせ買ったって何が書いてあるのかわかんないし……)
文字の読み書きができれば違ったのに。
(でも、見るだけなら……)
しばらく葛藤していたが、気づくと俺は書店の中にいた。
中に入ると、紙特有の香りがする。
3人ほどお客がいたが、明らかにスラムの子供であろう、薄汚れた俺の姿を確認すると、皆出ていった。
(……これで見やすくなった)
その状況に少し悲しくなったが、気丈に振る舞うことにした。
すると、すぐ目の前の棚に釘付けになる。
色々な本が売っていたが、俺の目に入ってきたのは、8歳の日に母に買ってもらったような図鑑のコーナー。
(これ、面白そう!)
一冊手に取って見てみると、面白そうな野菜や果物イラストがたくさん描かれていた。
しかし、しばらく夢中で読んでいたものの、肝心の内容がわからない。
諦めて棚に戻し、俺はとぼとぼと入り口に向かった。
「ちょいとお待ち」
すると、店主の老婆に呼び止められた。




