真っ暗闇の中、5mの棚から降りようとする8歳
足元に注意して棚を一段一段登っていく。
一段上がったら、次の段に腕をバンザイで引っ掛けて、そのままグイッと体を持ち上げる。
棚は古いからギシギシ言っているが、それが危ないとか、そういう感覚は特に無い。
そんなことを言っていたら、あの伝説の花は取れないのだ。
ーーーこれは俺の冒険なんだから。
お母さんに花の大秘宝を渡すんだ。
そのワクワクを胸に、ついに最上段に到達する。
(やった……!)
そこには見たことのない赤い花が、壁の割れ目から生えていた。
だが、手を伸ばしてみるも、花には微妙に届かない。
(クソ!もう少しなのに……!)
よく見ると、ここまで登ってきた棚は、5段積み上げられているが、上の方にいくにつれて少しずつ前に出ている。
そのせいで、最上段と壁の間に1メートルくらいの隙間ができており、届かないようになっていた。
(ここまで来て諦めてたまるかっ……!)
諦めずに手や足を伸ばしてみるが、やはり届かない。
しかし、子供ながらに、ずっとやっていればいつかは取れるんじゃないかと思い、「う〜ん!」と声を出しながら手を伸ばし続けた。
それから、2時間くらいが経っただろうか。
花は相変わらず取れなかったが、取る方法は変わっていた。
先ほど、このひとつ下の棚に古びたナタがあったのを思い出したのだ。
(あれを使えば、もしかしたら……)
俺はすぐにひとつ下の棚に戻り、ナタを拾ってきた。
持ち手の部分を入れて30cmくらいだろうか。
そして、うつ伏せになって手を伸ばすとーーー。
「あ!ちょっと触れた……!」
花の茎の部分に刃の部分が引っかかる。
とにかくそれを繰り返した結果、茎はプランプランと、もう落ちそうな所まで来た。
ーーーそして。
ーーーポトリ。
「落ちた!!」
棚と壁の間に花が落ちた。
あとは下に降りて、拾えば良いだけ。
俺は、自分の偉業を心の中で讃えながら、母親が喜ぶ顔を想像して嬉しくなった。
しかし、棚から降りようとした瞬間、気づく。
「ひっ……」
ーーー暗闇。
花に夢中になっていて気づかなかったが、辺りはとっくに真っ暗になっていた。
花が見えたのは、そこからうっすら月明かりが見えたから。
今も所々光は差しているものの、棚周りは何一つ見えない。
あまりの恐怖に、俺は泣き出しそうになる。
ーーーとにかくお母さんに会いたい。
だから俺は、意を決して、暗闇の中、棚を降り始めた。
まずは、最上段の足場の端を両手で持ち、鉄棒にぶら下がっている状態になる。
そして、難しいのが、その状態になっても次の足場に微妙に足がつかない、ということ。
登ってきた時は少しジャンプして、ようやく手をかけられたのだった。
だから、足が付いていない状態で次の棚まで降りなければならない。
しかも、上の方の棚が前に出っ張っている関係で、少し体を揺らして内側に向かって飛ぶ必要がある。
(こ、怖い……!)
あまりの恐怖に足がガクガク震える。
暗闇のため、下がどれくらい高いのかすらわからない。
落ちたらただでは済まないのは確実だろう。
しばらくそうしていたが、手がいよいよ限界になってきた。
ーーー俺は意を決して、飛んだ。
「うっ……!」




