花を見つけた少年は廃工場の棚(5m)を登る
昔、6歳の誕生日プレゼントに母親が買ってくれた植物図鑑。
「カイ、これ!お誕生日プレゼント!」
「えーーーーー!!」
「おめでとう!カイ!」
それまでおもちゃなんて買ってもらったことはなく、子供ながらに遊ぶとしたら、外を見たり、歩いたりすることだけだった。
でも、俺がいつもその辺に咲く花や草を見ていたから、高かったろうに、母親が大奮発して買ってくれたのだ。
手書きの植物のイラストと、解説が載っている一冊。
決して裕福ではなかったけれど、そのプレゼントがどれだけ嬉しかったかは言うまでもない。
その日から、俺は母親に今日見た草や花を持って帰り、それが何という植物なのか、教えてもらうようになった。
今でこそ母子家庭のため、日雇いの裁縫仕事をしなければならないが、母親はもともと中流階級であったことから、学校に行っていたため、読み書きも普通程度にはできる人だった。
「お母さん!今日はこの花見つけたよ!あげる!」
「ありがとう、嬉しいわ。どれどれ?あ!その花はね……」
そうやって、母親は楽しそうに俺に植物の名前を教えてくれる。
それ以降、何か買ってもらえることはほぼ無かったが、俺にはこの母親との楽しい時間だけで十分。
擦り切れるほど、その植物図鑑を読み込んだ。
相変わらず何て書いてあるかはわからなかったが、母親が教えてくれた植物だけは、字面でなんと書いてあるかわかる程度には、字を覚え始めていた。
ーーーそして、8歳になったその日も、俺は、呑気に花を探していた。
「今日こそ新種の花を見つけるぞ!」
そんな意気込みと共に、外に飛び出す。
「ここまでだったら行っても良いわよ」
そう母親に言われていたエリアの端まで来た。
(また新しい花は発見できなかったな……)
諦めて帰ろうとしたその時、エリアの外に目を向けてみると、しばらく使われていない廃工場に夕日が差していた。
(ここ……もしかしたら、新しい花があるかも……)
新しい花を見つけて持って帰った時の母親の笑顔がまた見たくて、俺は約束を破った。
小さな体の特性を活かして、施錠された扉とは別の、アルミ板の割れ目から工場内に入る。
中に入ってみると、埃っぽい空気に変わった。
広い工場内を見渡すと、所々穴の空いた天井から、夕焼けの光が降り注ぎ、幻想的だった。
(キレイ……)
しかし、夕陽が落ちたらもう花を見つけられない。
ーーー俺はすぐに行動に移した。
まずは床を見て回るが、土と埃と小さな雑草くらいでめぼしいものは無かった。
次に壁一面に置かれた棚。
大きな棚が5段積み上げられて、上までは5メートルほどだろうか。
ここは、よくわからない瓶や機材が置かれているだけ。
(この棚、邪魔だなぁ……)
この棚の奥の方は壁に繋がっていて、なんとなく新しい花の予感もする。
そんなことを考えながらふと上を見上げると、棚の最上段あたりの壁から、一本だけ赤い花が咲いているのが見えた。
(なんだあれ!)
今まで見たどの花よりも大きい。
俺は興奮を抑えきれず、棚に足をかけた。




