老婆が魔王サタンを呼び出した理由
村長のおばあさんが古の邪教が使ったとされる召喚の儀式を行なってまで魔王サタンを呼び出した理由は2つあった。
①村長である自分の命を生贄に、村に雨を降らせてほしい。そして、その結果、穀物や野菜などの実りをもたらしてほしい。
②圧政を敷いているピリピリムーン帝国から解放してほしい。
という2つだった。
この国に支払う税は金ではなく、水や食糧。
マルタ村に課せられているのは、1ヶ月あたり水30kgと野菜30kg、米30kg、獣肉10kgらしい。
この量は、マルタで採れる水や食糧のおよそ85%。
この重税により、50人ほどいる村人に食糧はほとんど回らず、1日1食食べられれば良い方、という生活をしていた。
「こんな状況を作ってしまったのは、私のせいでもあり……。もはやこの命をもって償うことしかできませぬ……」
そう言って老婆は涙を拭った。
「村長……。あんたのせいじゃねぇ。この状況を作ったのはローラン……、いや、ピリピリムーン帝国だ」
村の2番手らしき男が村長の背中をさすった。
「いいえ。我が息子、ローランの罪は私の罪です……。私があんな罪人を産んで育ててしまったから……」
老婆は唇を噛んで俯いた。
「あんたの息子は何をしたんだ?」
俺は先ほどまで逃げ出そうとしていた気持ちと打って変わって、この村の状況が可哀想になってきてしまっていた。
自分に何ができるかはわからないが、ひとまず話を聞いていく。
村長は自分の罪を噛み締めるように、重たい口を開いた。
「私には、ローランという一人息子がおりました……。子供の頃は、明るく元気な子でして、皆から愛されておりました。それが10年前、この村を出て行ったのです……」
「村を出た?でも、まぁ大人としてはそういう選択肢もあるんじゃないのか?」
「もちろん、一生この村にいないといけないなんて決まりはありません……。ですが、息子が向かった先は、ピリピリムーン帝国の帝都、ピリピリムーンだったのです」
「いや、ごめん、"ピリピリムーン帝国"って言い方やめない?真面目な話がギャグみたいになっちゃう」
俺は高まった感情を一気に落とす国名に意義を唱えた。
「ですが、ピリピリムーン帝国なので……」
「……わかった。それじゃあ、俺との会話の時には、国名はムーン帝国、帝都はムーンと省略しよう。その方が長くならないし」
我ながら良い提案だったと思う。
こういうのは、感情が高まるかどうかで手助けするか変わってくる。
("ピリピリ"を取るだけでだいぶ違うはず)
老婆も国名の省略に納得してくれた。
話はさらに続いていく。