吸血鬼が世話になった村の惨状を労働省の事務次官に伝える
「昔からメイジーは"もやし"が好きでねぇ。子供の頃に、ボールに山盛りにしたもやしを食卓に置いておいたら、配膳中だというのに、全て無くなっていたんだよ。あれは笑ったなぁ」
「は、ははは……」
俺はかれこれ2時間ほど、ワインをたらふく飲んだ酔っぱらいの親父からメイジーの昔話(興味なし)を聞いていた。
婚約者や彼氏ならギリギリ耐えられるかもしれないが、出会ったばかりかつ、幼い頃のメイジーを知らない俺にとっては拷問に等しい。
どうやら本当に俺が彼氏だと思っているらしく、義理の父親のようなテンションで昔話を聞くことを強要される。
そしてめんどくさくなって少し相槌やリアクションをサボると、「あれ?つまらないかね?」と詰められる。
しかし、また水の剣など出されるのも面倒なので、黙って聞くしか選択肢は無く、せっかくの超高級ワインもこの親父のつまらない喋りによって味が無くなってしまっていた。
ただ、さすがにそろそろ限界。
俺は強引に話を変えることにした。
「あ、親父さん。そ、そういえば仕事は帝国労働省の事務次官なんだって?」
「え?あ、うむ。あ、それから、昔メイジーは傷ついた子犬を拾って来てなぁ。母親がダメだと言って野に返したと思ったのに、隠して飼っていたっけ。優しい子だよ」
「もう、お父様。私の話ばかりで恥ずかしいですわ」
メイジーは頬を赤らめながら顔を伏せる。
その様子を俺は無表情で見ていた。
「そ、それは優しいなぁ……。それより、親父さんのお仕事の話が聞きたいんだけど……」
ーーーそう。
恐らくこの親父、帝国労働省の事務次官ということは、税収の元締めなのだ。
図らずも、マルタの状況を改善するために一番必要な人間に接触することができた。
「……仕事?家に帰ってまで仕事の話をするのは少し億劫だな……。あと、メイジーは昔から歌が得意で……」
「わ、わかった。メイジーの話はまた後でゆっくり聞かせてほしいから、今は俺の質問に答えてくれ」
俺はエピソードが始まる前に慌てて遮る。
「ふむ。それで?何が聞きたい」
俺は少し真面目なトーンで切り出した。
話している限りこの親父、クセはあるが悪い人間ではなさそうだ。
しかし、この件の返答次第によっては再び揉めてしまうかもしれない。
また、家族に対しての顔と仕事での顔は違う、というのもよくある話のため、俺は慎重に探っていくことにした。
「実は、俺はマルタという村に関わりがあってね。とても世話になったんだ」
マルタと聞いて、親父の顔が少し優しくなった。
「ほう。あの自給自足の農村かね。昔、私が騎士団にいた頃、プニパン港の警備で怪我をした時に、通りかかったマルタで村長の女性に助けてもらったよ」
この親父、実はあの村長の婆さんと知り合いだったようだ。
「マジか!それは話が早い。実は、マルタが帝国労働省に『85%』って異常な食糧税を掛けられていて、村人みんなが苦しんでる。あんた、何か知ってるか?」
「………なんだって?」
俺の話に、親父は急に目を見開いた。




