令嬢の親父と吸血鬼のマジ喧嘩
「そうですか!メイジーが船から落ちそうになった所、あなたが助けてくれたんですね!それは……本当にありがとうございました」
「いや、まぁ成り行きっていうか……。そんな大層なもんじゃない」
「いやいや。メイジーは私にとって大切な一人娘。もしいなくなってしまったらと考えると怖くなります。本当に感謝してもしきれません」
「ええ。本当に。それはそうとお父様、サタン様はワインがお好きだそうです。よろしければ、"アレ"を開けさせて頂けないかしら?」
「な、なんと!アレを開けると!?メ、メイジー。まさか彼のことを……」
「い、いやですわ、お父様ったら!そんなのじゃありません!先日の婚約破棄があって、もうしばらくは開けられないですし……。大切な命の恩人へ恩返しがしたいのです」
何やら"開ける"、"開けない"で揉めているようだ。
「メ、メイジー。うわぁぁあああ!!アレを開けてしまうとは……。なんて……なんて可哀想なぁぁあああ!!!」
父親は人目もはばからず大声で号泣する。
「お父様……。親不孝な娘でごめんなさい……。いつか必ず、幸せになってみせます。だから今は、開けさせて頂きます!!」
「うわぁぁあああ!!!」
あまりの絶叫に、俺は急に"開けて"ほしくなくなってきた。
「い、いや!メイジー、すまん!俺、そんな想いのこもったワイン、ちょっと重たいっていうか……」
「うわぁぁあああ!!!」
「うるせーよ!!」
そしてメイジーは部屋を出て、"ソレ"を持ってきた。
「こちらです。私が生まれた年に、父と母が買ってくれた赤ワインです。その年の最高に希少なブドウを使った最高級品ですわ」
「う…う……。メイジー。それ一本で家が買えるほどだというのに……。それを開けるほど、彼のことを……!」
また親父がぐずぐずし始める。
「う、うわぁああああああああ!!」
「もうこいつつまみ出せよ!!」
俺は思いっきりメイジーの親父にツッコむと、改めてワインに向き直る。
どうやら話の通りかなりの年代物で、その雰囲気から高級品だというのは一発でわかった。
「確かにこれはすごい酒っぽいな」
俺はボトルを持って見回す。
「本当であれば、私の結婚記念にハネムーンで開ける予定だったのですが……。いえ、そう言ってしまうといわく付きになってしまいますわね。で、でも、味はきっと確かですわ!ぜひサタン様、飲んで下さい!」
カトリーナは自分印のワインに胸を張った。
「それじゃあ遠慮なく」
俺は指でコルクの下の瓶の部分を切り落とすと、ドボドボと自分のグラスにワインを注いだ。
「いや、普通に栓抜き使えよ……」
謎の生物の適当な開け方にカトリーナが呆れる。
「いただきまーす」
そして一口含むと、年代物特有の臭みはあるものの、ブドウ本来の香りはしっかりと残る最強フルボディが舌を転がる。
その芳醇なコクとまろやかさ。
そして鼻に抜けていく果実の甘い香り。
常温こそ一番味わい深い温度だと言わんばかりの主張に納得しながら、俺は目を閉じた。
「うん、これは……」
「うまかろう」
「え?」
うまいと言おうとした瞬間に、親父が横槍を入れた。
「メイジーの生まれた年のワイン。うまかろう」
そう言うと、まだ一口しか飲んでない俺のグラスを奪い取り、中身を全て飲み干した。
「いや、ちょっと……」
そして、親父はボトルに手を伸ばすと、直にラッパしだした。
「グビッグビッグビッ」
「おい!何やってん……」
一気に半分ほど無くなってしまったワインを取り戻すと、俺は親父を睨みつけた。
ほろ酔いで頬を赤らめた親父が睨み返してくる。
「そのワインを返しなさい。まさか君も、テイラー家のように婚約破棄するのか?」
「な、何言って……」
「婚約破棄するのかと……」
親父を中心に水色の魔法エネルギーが集まり、目の前の空間から水が高速回転している剣が現れた。
「よせ!」
親父はその剣を手に取ると、俺に振り下ろした。
「聞いているんだがねーーー!!!」
ドォォォーーーン!!
居間の巨大なテーブルが真っ二つになる。
ヤバ過ぎる親父に、俺は目を丸くした。




