婚約破棄された令嬢の家で楽しい夕食会
「ケツ痛って……」
パニポンから馬車でおよそ3時間。
ペペロニアに着いて馬車から降りると、お尻をさすりながら俺は呟いた。
「ほんとですわ。お金掛かっても良いのでふかふかのシートの馬車もご用意頂けないかしら」
どうやらメイジーのケツも限界だったようだ。
「うわ!サタン!あれ見てよ!」
カトリーナが指差すと、そこには尖ったような形の巨大な教会の建物が見えた。
「ええ。あれがピッピンプンスカ教会本部ですわ」
「ケツ痛って……」
「近年、頻繁に増築されてあのような天を突くような大聖堂も出来上がりました。次は超豪華な児童施設を建設予定のようです」
クロエが丁寧に教えてくれる。
「ケツ痛って……」
「もううるさいよ!!」
さすがにカトリーナがツッコんだ。
「ってか超豪華な児童養護施設ってなんだよ」
そこで育つ子供はどんなアイデンティティなるのか不安になった。
「さて、教会へ向かうのは明日にして、一旦私の家へお越し下さい。お夕飯をご馳走しますわ。もちろん寝床も」
メイジーは怪物ウニの付いた服でニコリと笑う。
「悪いな、助かる」
俺は素直に好意に甘えることにした。
「そんな。サタン様は私の命の恩人ですもの。むしろそんなことくらいでは恩を返しきれないくらいですわ」
「なら、夕飯の時に美味しいワインを頼むよ。それで命の恩はチャラだ」
俺はこれ以上、変に気を遣われるのも疲れるのでそれで手を打ってほしいと申し出た。
「ですがそれくらいでは……。いえ、わかりました。それでは特別高級なワインをご用意させて頂きますわ!では行きましょう!」
そう言うとメイジーは目に炎を宿し、自宅へ向けてスタスタと歩き出した。
「い、いや、別に普通くらいのやつでいいからね?通ぶりたいだけで、そんな味とかわかんないからね?」
俺の言葉はすでに耳に届いていないようだった。
「ご足労頂きありがとうございました。こちらです」
連れてこられたメイジーの家は、西洋にある貴族の家のようだった。
湖のほとりに立てられた大きな家は、新し過ぎず、程よく洋館の味が出ている。
また、緑が生い茂る環境もフランス生活の長い俺にとってはとても好みだった。
「うわー!!メイジーの家すごいね!!」
カトリーナが感動の声を上げる。
「いえ、古い家でお恥ずかしいですが……。お入りになって下さい」
そう言うと玄関の扉を開けた。
全員入って、ガチャリと扉が閉まる音がすると、2階からダンディズムの塊のような男が現れた。
「メイジー。帰ったか」
「ええ。パパ、ただいま戻りました」
ダンディズムは俺をチラッと見ると、少し目を細めた。
「お友達かな?」
「ええ。こちら、私が乗った船がプラーケンに襲われた際に命を助けて頂いたサタン様のご一行ですわ。ね、クロエ」
「はい。旦那様。こちらの方々はメイジーの命を助けて頂いた大切なご友人です」
少しの間、ダンディズムは何か考えていたが、こちらを見て微笑んだ。
「パニポン付近で巨大プラーケンが出たというのは聞いていました。娘がそれに襲われた所を助けて頂いたとは。誠に感謝します。さあ、上がっていってください」
俺たちは2階の居間へ通された。
ーーーこの時、このダンディズムの本性を俺はまだ知らなかった。




