動画を見た人からサインを求められる吸血鬼
「そういや、あんたはこの辺の生まれじゃなさそうだね?」
店主が俺の顔を見ながら聞く。
「ああ。だからデューのこともあまり知らない」
それを聞いて店主は微笑みながら言った。
「あの人は、すごい人だよ。他の地域の人からすると海賊って聞くと響きは悪いが、この辺でデューさんを悪く言う奴は聞いたことがない」
店主はカラフルなキャンディーを店頭に挿しながらしみじみ言った。
「元は暴れん坊だったが、今じゃ帝国の犬みたいになってると聞いたが」
「いやいや」と手をパタパタしながら店主が否定する。
「そんなことは全然無いよ。むしろ、帝国はバッドボブ海賊団がいるから国民に強く出られない。だから海賊なんかと手を組むのは本当は嫌なはずだけど、むしろ帝国の落とし所として今の"同盟"という立場にあるんだ」
店主は誇らし気に言った。
「ふーん」
俺は1ギル払ってキャンディーを舐めながら話を聞く。
「それに、デューさんの強さはあの帝国騎士団長も認めてるからね。一度秘密裏に魔王級モンスター"ゼロ"の討伐戦もやってたらしい。その時は勝てなかったそうだけどね。あくまで噂だけど」
店主は声のトーンを落としてこっそり教えてくれた。
それにしても、あのデューですら、手を焼くということは魔王級モンスターというのはかなりヤバい奴らしい。
「その"ゼロ"ってのは?」
「ああ。"魔王級モンスター"って呼ばれる最強にヤバい危険極まりないモンスターで、なんでか知らんけど、突然人間からなっちまうらしいんだ。だから普通の魔物と違って知恵もある」
「へー」
「だから本能で戦う魔物と違って、動きが読めずに倒しにくいそうだ。それに無尽蔵の体力に魔法力。一体倒すのにとてつもない労力と死人が出る」
「でも、そんなのがいるって怖くない?」
俺はキャンディーをガリっと噛んで割った。
「ああ。もちろんそうさ。……でも、魔王級モンスターの厄介な所は、普段は普通の人間の姿をしてるんだと」
「マジかよ」
「ああ。何か目立つ城とかにいるわけでもないし、何かのきっかけで真の姿を見せる以外に、今のところ見つけようがないらしい」
「そうなるよな」
「だから"ゼロ"を発見した時には秘密裏にデューさんと騎士団で向かったんだと思うよ。でもあのデューさんでも敵わなかったらしいけどね……」
店主から魔王級モンスターのヤバさを聞いたところで、俺はひとつ気になったことがあったので聞いてみた。
「ってかそんな国民のヒーローであるデューさんは、か弱い一般市民であるこの俺に腰を入れた全力グーパンしてきたんだが?」
デューのパンチのモノマネをしながら問いかける。
「あぁ。それは俺もビックリしたし、なんでなのか聞いたよ。そしたらデューさんが『アレは人間じゃなかった』って」
なぜかはわからんが、人間ではないというのはバレていたようだ。
「でも、その後、『人間じゃないけど魔王級モンスターでもないし多分無害なはず』って言ってたが……。それは合ってるかい?兄ちゃん」
おっさんは少し真面目な顔でこちらをじっと見つめてきた。
「いや、有害だと思うぜ。イケメン過ぎて女の子は倒れちゃうし、他の男はヤキモチ妬いちゃうから」
「そっか。じゃあ大丈夫そうだね」
「いや、イケメン否定すんな!」
俺はツッコんで抗議すると、店主はニカッと笑って肩を叩いてきた。
「悪者じゃなくて安心したよ!それに……」
「……それに?」
「ギガントクラブを倒した動画見たよ!兄ちゃん強いんだね!」
店主の目が輝く。
「あんたも見てんのかい」
「あんな強いんじゃデューさんのパンチだって避けちゃうわけだ!!俺はデューさんだけじゃなく、すっかり兄ちゃんのファンにもなっちゃったよ!……サインくれるかい?」
そう言うと色紙とペンを渡してきた。




