邪教みたいな奴らに召喚されちゃった吸血鬼
「ん……」
気づくと、そこは、まだ現実のようだった。
暗い場所だが、たいまつの明かりで明るくなっているような気がする。
(あれ……?俺、死んでない?……嘘でしょ!?なんで!!?)
どうやら俺は棺のようなものの中に寝そべっているらしい。
さっきまで光の中にいたから目が慣れないが、少し体を起こして細目にしながら辺りを見渡してみる。
「うわっっ!!!ビックリした!!」
その瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、50人はいるであろう黒いフードを被った一団だった。
暗い洞窟の中、膝を折ってフードを被って、頭を下げた状態のズラッと並ぶ人間たちの姿を見て、俺は思ったことを言った。
「邪教やん」
その言葉を聞いて、先頭にいた老婆が口を開いた。
「お、おぉ……。あなた様は……!」
俺が喋ったことで、一団はみんな顔を上げて俺を見て声を上げた。
「お、おぉ!」
「な、なんと……!」
「こ、これでついにお救い頂ける……!」
「う……うぅ……」
中には子供を抱えながら泣き出す女性までいた。
そして彼らは口々に"その名前"を叫び始めた。
「サ、サタン様!」
「サタン様!」
「サタン様!サタン様!」
「サーターン!サーターン!」
「サーターン!サーターン!」
みんな笑って泣きながらの大絶叫だった。
「サーターン!サーターン!」
そこに水を差す形にはなるが、一言だけ言わせてもらった。
「いや、サタンじゃねぇから!!!」
外に出ると、やはり先ほどいたのは洞窟だったようだ。
太陽が昇ってきているから、今は明け方らしい。
(日差しきっつ……)
俺は日光が苦手だ。
でもそれはヴァンパイアだから、とかではない。
(紫外線に当たるとお肌に悪いからね……。まぁもう最近はスキンケアもやってないけどさ……)
俺はかつては美容に余念が無い男であった。
(ん……?)
そして、そんなことを考えていると、俺は自分に起こったヤバい変化に気づいた。
(体が……軽いっ……!)
そう、100kgはあろうという(面倒なので計ってない)肥満体はどこへやら、そこにいたのは昔の自分だった。
俺は吸血鬼の始祖という、地球から突然湧いて出る自然災害みたいなもんなので、生まれた瞬間から成人のような肉体を有する。
そのムダの無い肉体に戻れたことをちょっとだけ喜んだ。
が、すぐに死ねなかったことに対する恐怖と怒りが湧いてくる。
(せっかく死ねたと思ったのに……!なんでだよ……!ニコルくん、また殺してくれるかな……)
俺が死ぬためには物理的な衝撃などではなく、エクソシストが扱うような特殊な術(禁呪)が必要になる。
普通はそんなのを会得するのも大変だし、強力な禁呪は術者にリスクもある。
しかもそれを俺を消し去るために使うなんていうのは、あの一族だからこそやってくれたことだ。
そんな特殊な条件が重なって、ようやく死ねたというのに、また一からやり直し。
そう考えると、俺はとても暗い気持ちになった。
が、そんなことも言っていられない。
(とにかく今はニコルくんを探しに行こう)
「それじゃ俺、もう死にに行くから!バイバー……」
思い立ったら即行動。
俺は村人に挨拶して飛び立とうとすると、
「おいっ!ババアいるかーー!!?」
その瞬間、村の入り口らしき所からひとりの男の大声が響いた。
村のクワを蹴りつけたり、なにやら苛立っているようだ。
「うっ……。サタン様、ここでお待ちを……」
老婆はそう言うと男の元へ向かっていった。