牢獄に繋がれているチンピラ
「お前、ジョウチン……?」
突如と襲ってきた記憶の渦。
忘れていた訳ではないが、なぜかパリのチンピラ、『カイ・グランデ』との記憶が溢れてきた。
俺は、改めて教会内の牢獄に繋がれたチンピラ風の男をまじまじと見つめる。
(こいつの額の"印"……。顔は違うけど、まさか……)
黒髪から覗く額には眷属印が見える。
「なぁ、お前……」
「………あ?」
男は半目で俺を見た。
「Yo!『ジョウチン』!今日の『調子』はまた『意気消沈』?イェー」
俺はおなじみになっていたジョウチンおちょくりラップを披露した。
「誰だ……テメー……」
「この状況で毒づくとか、マジで『笑止』」
やはり、人違いだったようだ。
ジョウチンがここにいる訳ないしな。
(でも!!……これ、やっぱ俺の印じゃね……?)
そして、誘われるように男の額を触った瞬間ーーー。
ギュイイイイン!!!
「う、うわぁぁぁァアアアア!!!」
「うっ!!ぐぁっ……!!!」
ものすごい記憶の渦が頭の中を駆け巡る。
先ほどよりも強烈な現世の記憶。
俺はなんとか耐えられるものの、男は半狂乱のように頭を抱えて叫び出す。
「な、なんだこれ!!?やめろぉぉオオオオ!!!」
男の黒髪はみるみる金髪に変わっていく。
(……スーパー●イヤ人!?)
そして、しばらく叫ぶと、男は糸が切れたようにうなだれた。
「お、おい。大丈夫か……?」
俺は心配になって問いかける。
「………………」
うつろな瞳で返事はない。
「おーい、聞こえてますかー?」
顔の前で手を振ってみる。
「………………」
それでも反応はない。
「ったく。しょうがねーな。ほらよ」
俺は人差し指と親指に力を集中して、手錠と鎖を外してやった。
「……………」
男は黙って立ち上がると、部屋の入り口に向かって歩いていく。
「おいおいおい!どこ行くねん!」
俺は慌てて止めるも、パシッと手を振り払われてしまった。
そして、男のものなのか、隣の部屋に無造作に置かれていた散弾銃を手に取ると、黙って俺の元へ戻ってきた。
「ん?」
すると、男はいきなり俺に向かって銃を構える。
「……………」
男の目はじっと俺の顔を見つめている。
「なんだよ?ってかその顔、やっぱお前、ジョウチンじゃん!」
記憶の波が襲ってきたからか、繋がれていた時の容姿が変化し、俺が知っているジョウチンになっていた。
「……………」
「いや、絶対そうでしょ!ってかジョウチンだとしたら、そんなの構えたって、"人"に向かって銃撃てないの俺は知っ……」
「……………」
ーーーズバァァァァン。
その瞬間、強烈な炸裂音と共に、俺の腹を細かい銃弾が貫通し、肉片が飛び散った。
「なにすんじゃい」
「おめーは"人"じゃねーだろ。『ルシフェル』」
ジョウチンは、今もジョウチンだった。
それから俺たちは、カイが繋がれていた部屋でしばらく語り合った。
「お前はどこまで覚えてる?ってか現実世界のこと、今思い出したの?」
「ああ。さっきまですっかり忘れていた。というか、今でも俺なんだけど、俺じゃねーみたいな、妙な感覚だ」
「まぁそりゃいきなり人間一生分の記憶が戻ったらな」
「俺は、ガキの頃からこの世界で生きてきた。この人生も間違いなく俺のもんだ」
「あぁ」
「ってかお前はなんなんだ?俺はこの世界で生まれた時は顔も変わっちまってたが、お前はなんで何も変わってねーんだ?」
それに関しては俺も謎だった。
「うーん。なんかわかんないんだけど、記憶も肉体もそのままだったんだよね。あ、肉体は多分生まれたばかりだけど」
「は?」
カイは顔に『?』を浮かべて俺を見た。
「あ、俺、地球が産んだ災害みたいなもんだから、赤ん坊の時とか無くて、産まれた時から大人みたいな体なんだよね」
「気持ちわりっ」
「いや、気持ち悪くはないだろ!!」
そっぽを向いて呟くカイに俺はツッコんだ。
「そんで?お前この教会で何やってたんだ?」
「ん……。ああ……」
繋がれていた理由を尋ねると、カイは苛立ちを隠さない顔で語り出した。
「このピッピンプンスカ教会のクソ大司教、『エーギル』にやられたんだ」




