面倒な奴に絡まれた!
「それでは、今日は剣の立ち合いをします。木剣ではなく、刃をつぶした剣を今日は使います。二人組を組んだら、剣を取りに来てください。」
二人組か。なら
「アント…」
「おい!よそ者!僕と組め!」
例の少年がこっちに突進してきた。いやいや、なんでだよ。
「はあ?なんでだよ?」
「今ここで、お前の化けの皮をはいでやる!」
う~ん?…ああ、なんか魔物だとか思ってるんだっけ?
「うん、拒否するよ。」
「何故だ!?」
拒否されるのは想定内だったのか、勢いはそのままだった。
「いやだってねえ?」
「なんだ!?」
「お前、弱いし?僕が得るものは何もなさそうだし?」
「だとしてもだ!僕はお前に勝たなきゃいけないんだ!」
うん?なんか事情があるのかな?だとしてもどうでもいいかな。
「いやいや、多分差がありすぎて君も得るものはないと思うよ?」
「そうだろうな。でも、もう遅いぞ。」
「何がさ?」
「周りを見てみろ。僕以外に組んでいないやつはいないぞ。」
「え?」
いやいや、まさかねぇ?ヒカリとシズクはう組んでいるとしても、アントンは空いてるでしょ。
………あれ?アントンももう組んでるんだけど?ああ、仕込みってのはこれか。
「はいはい、わかったよ。組めばいいんだろう?」
「そうだ。」
少年はこちらに向かって剣を向ける。対する僕はというと、
「…おい、なぜ剣を取らない?」
「まあ、その必要はないからかな?」
「…………ざけるな。」
「え?」
「ふざけるなぁぁぁぁ!」
叫びながらこちらに向かって剣を振ってくるが、剣筋が甘い。何度も振ってきてはいるものの、かすりもしない。……ってゆうか、弱すぎない?周りの視線も感じるし早く倒れないかな?
「なぜだ、なぜ、、剣が当たらない!?」
「弱いから。」
「っ!!!??……落ち着け。…ふう。行くぞっ!」
へえ、冷静だね。でもそれでもまだまだだね。そろそろ、息も切れてきたかな?
「……レオ、剣を取れ。」
後ろからジークさんの声が聞こえてきた。周りの視線がジークさんに集中したことが分かった。
「ジークさん!?どうしてここに?」
「未来の冒険者の姿を見ておこうと思ってな。そんなことより、剣を取れ。今は全力で相手しろ。」
「……わかりました。」
剣を少年に向ける。
「行くよ。」
「っ!ああ、こい!」
ふう、と一息ついてから、全力で動いた。少年にとってはいきなり僕が目の前に現れたように見えたのだろう、驚愕の表情を顔に張り付けていた。しかし、彼は何とか剣を持ち上げて僕の剣を受けようとした。
僕はその剣を切り飛ばし、首筋に手刀を当てた。
少年は意識を失ったのか、そのまま起き上がることはなかったため、冒険者ギルドの医務室に連れていかれた。周りからは様々な感情を内包した視線を向けられた。好奇であったり、驚愕であったりした。
「強くなったな、レオ。」
ジークさんがほめてくれた。嬉しさで笑みがこぼれる。
「稽古で教えたことがよくできているな。」
「ありがとう。」
「でも、だからこそ昨日言った忠告は気にかけておいてくれよ。」
「…うん、わかった。」
一昨日の稽古でのこと。
「レオ、今日から教えるのは身体強化と武器強化の魔法だ。」
「え?僕は魔法使えないって言われたんだけど?」
「いいや?お前は使えるはずだぞ?魔力も魔法使いほどではないが、ちゃんとあるし。」
マジか…、知らなかった。
「で、まずは魔力を認識するところから。最初だから、体の中心にある魔力を血管を通して体の隅々まで回すイメージだ。って言っても、本当に最初は、魔力を認識できるようにするんだが、それはできるか?」
「いや、知らないです。木剣を振ることしかしてなかったので。」
「じゃあ、ちょっとじっとしていろよ。」
するとジークさんは僕のちょうど心臓の上あたりに指をあてて、
「痛っ!」
バチッ!と音を立てた。体中に電気が流られるような感覚がした。
「痛かったか?今無理やり、体中に魔力を流した。今の感覚通りに魔力を動かせそうか?」
「えっと、こんな感じですか?」
ゆっくりと、本当にゆっくりと体の中心から何かが広がっていくのを感じた。
「そうだ。そんな感じだ。だが、そんなゆっくりでは実戦では全く使えない。だから、スピードを上げていかなければいけない。で、その方法が二つある。一つ目は、木剣を毎日振っていたように毎日繰り返すこと。速度は遅いが確実にできるようになる。もう一つは、他人から無理やり体内魔力を動かしてもらって、それに慣れるようにすること。まあ、さっきのやつよりも何段階か強いものを繰り返すってことだ。速度は速いが、かなり痛い思いをすることになる。
…どっちにする?」
そんなの当然、
「二つ目のほうでお願いします。」
「迷いなしか…。いいだろう。これから、5分俺が動かして、そのあとの5分レオが自分で動かす、って感じで実戦で使えるような速度になるまで繰り返すぞ。」
「はい!」
「…一応、防音の魔道具を置いておくか。」
それから二時間ほど訓練して、ようやく合格した。
かなり大声が出ていたらしい。ジークさんの顔が少し歪んでいた。