雑用をこなすぜ!
「おばちゃん、庭掃除終わったよ。」
と家の中に声をかけると、のそりと部屋から出てきて
「おつかれさま。毎日ありがとうね。あぁ、これ少しだけどお小遣いね。」
と銅貨を1枚くれた。
「ありがとう!ほかに何かすることある?」
「う~んとね、今日はもうないかね?いや、トマトを買い忘れたから買いに行ってほしいんだけど、お使いできるかね?」
「お、お使いか~。今日お金について教えてもらったばかりだから、ちょっと不安かも。それに八百屋さんがどこかわからないし。」
「なら、一緒に行きましょうかね。そうすれば次からはお使いも頼めるしね。」
「いいの!?ありがとう!」
孤児院や冒険者ギルドは街の西側にあり、八百屋さんやお肉屋さんは東側にあった。これまで東側に行ったことがなかったから、まったく知らなかった。ちなみに、南側には武器屋や防具屋があって、北側にはこの街の領主が住んでいるらしい。
「八百屋さんについたよ。」
「おぉー、野菜がいっぱいだね。」
すると、奥から店主らしき人が大きな箱を持ちながら出てきて、
「おお、さっきも来なかったか、ばあさん?」
と声をかけてきた。
「トマトを買い忘れてしまってね。それと誰がばあさんだって?」
「ははっ、冗談さ。だからそんな目で見ないでくれ、っと!」
話しながらで気が散ったのか、店主の持っている箱からトマトが一つ落ちてきた。
「あぶなっ」
それを僕は反射的に落ちる前に拾ってしまった。すると、おばちゃんと店主が目を丸くして僕を見ていた。いたたまれなくなって、
「えっと、危なかったですよ」
と言いながら、拾ったトマトを店主に渡した。
「お、おう。ありがとうな。それにしてもすごい反射神経だな、坊主。もう絶対ダメにしたとおもったのによ。」
「え?いや、普通ですよ。」
「何が普通なもんかい。何人も冒険者を見てきたけど、レオの年でそこまでの反射神経をしているのは見たことがないよ。たいしたもんだね。」
おばちゃんが感心したような顔で僕を見てくる。
「えっへー、そんなにですかね。」
「おうよ、坊主は、じゃなくてレオだったか?レオは将来有望だな。せっかくだから、このトマトはお前にやろう。」
「いいの?」
「ああ、その代わり野菜を買うときはウチに来てくれよ」
「わかったよ。」
ガシっ、と握手を交わす僕と店主を生暖かい目で見つめながらばあちゃんが
「トマトをうってくれんかねえ」
とつぶやいていた。
買い物から帰り、おばちゃんの家についた。
「今日はありがとうございました。」
「気にしなくていいよ。これで庭掃除だけじゃなく、お使いも頼めるわけだからねぇ。また明日おいで」
「はぁい!」
そういいながら僕は孤児院に向かってダッシュしていた。
「まったく、そそっかしい子だねえ。」
孤児院につくと、シズクが嬉しそうな顔をして僕に声をかけてきた。
「おかえり!」
「ただいま。そんな顔してどうしたの?」
「今日ね、なんとね、ジークさんたちのパーティーが帰ってきたんだって!」
「マジ?!挨拶に行かなきゃじゃん。どこにいるの?」
「まだ、依頼の途中だって。でもごはんの時までには帰ってくるって言ってたよ。」
「そうか、ありがとう。また稽古頼もうかなぁ。」
「そうしなさい。私はレナさんに魔法を教えてもらうんだ。」
ジークさんたちはBランクのパーティーで最もAランクに近いといわれているパーティーだ。パーティー編成は剣士のジークさん、攻撃魔法を得意とする魔法使いのレナさん、支援魔法を得意とする魔法使いのマロンさん、盾役のウォロさんだ。全員がソロでもBランク相当の実力を持っているらしい。ちなみに皆さんがこの孤児院の出身だ。
…今日は少し帰るのが早かったな。よし、夕飯まで木剣でも振るか。
ということでいつもの裏庭で木剣を振っていた。木剣を振るといっても適当に振ればいいというわけではない。というのも、前にジークさんが「剣を振って疲れるのは無駄があるからだ。無駄をなくせば疲れることはない。だからまずは正しい型で正しい力で剣を振るよう意識しなさい。次来るときには意識せずともできるようになっているといいな。」と言っていたからだ。そのため剣を振る。ひたすら振る。振る。ふる。…………。
「よくなってきているじゃないか、レオ。」
ふとそんな声が後ろから聞こえてきた。
バッと後ろを振り返ると、ジークさんが立っていた。