教えあおう その1
「ただいま~」
孤児院に帰ってきたのは、十五時くらいだった。
「おかえりなさい。」
「アントン達はもう帰ってきた?」
「まだ帰ってきてませんよ。」
「じゃあ、帰ってきたら裏庭に来てって伝えてくれる?」
「はいはい。まだ昼寝してる子供達もいるから、できるだけ静かにね。」
「分かった~。」
裏庭につくと、雑草とかはいつも通り残っていなかった。院長先生がいつも片づけてるのかな?もしそうなら、残しておいてもらおうかな。何かコツがつかめるかもしれないし。
さて、いつも通り剣を振ってきますか。途中から少しずつ身体強化をかけていって練習しておこうか。身体強化の倍率を速く調整できるようにならなければ。ゼロか百か、じゃダメだし。
ブンッ、ブンッ、ブンッ、…
よし、そろそろ身体強化をかけていきますか。
ブンッ、ブンッ、ブンッ、…
あれ?これかかってるか?
ブンッ、ブンッ、ブンッ、…
わからん!一回剣を振るのをやめて身体強化だけでやってみるか。
まず体中に魔力を通して、それを少しずつ使っていこう。…あ~、もう上限まで来ちゃったか。もう一回最初からやってみよう。
「お、来るの早いな、レオ。おれが一番早いと思ってたんだけどな。」
「今日はお使いとかもなかったし。アントンこそかえって来るの早くない?」
「今日は早めに帰らせてもらったんだ。ヒカリたちと教えあわなきゃいけなかったからな。」
「なるほどね。…話変わるけど、僕の目が見えてないこと気づいてた?」
「ん?当然だろ?何年間一緒にいると思ってんだ。今朝の段階でヒカリたちももちろん気づいてる。そのうえで態度が変わってないってことは、そこは気にしてないってことだ。お前は右目を失って、ヒカリとシズクはさらわれかけて、俺は訓練の最中殺されかけた。今朝謝ったのは商会にされたことは全部俺たち全員のせいだから水に流して忘れようってことだ。
だから、なんも責任感じる必要はない。」
そういうことだったのか。全然気づかなかった。
「そうだね、目が見えないのが関係ないぐらい、強くなればいいんだし。」
「そうだ、じゃあ早速身体強化の練習を始めるか。」
「うん。どうやって身体強化の倍率を抑えてるの?」
「あれは蛇口をちょっとずつ緩めていくようなイメージらしい。そうウォロさんに教えてもらったけど、まだうまくいかないな。上限はどうやって見つけるんだ?」
「ん~とね、体が熱くなってきたら暴走しかけてる証拠だから、すぐに魔力の使用を止めるんだって。それ以外は特にないかな。」
「体が熱くなるのか?」
「うん、実際湯気まで出かけたことあるし。」
「ちょっとやってみるか。………、ん?なんかもうこれ以上使えないぞ?それなのにまだ体も熱くなってきてないし。」
「そうなの?う~んなら、魔力を全身に広げるのにどれくらいかかる?」
「だいたい10秒くらいだな。」
「多分それかな。僕は広げるのに1秒かからないでできるし。」
「そんなに早いのか!?」
「うん。じゃあ二人がくるまで、個別でやってみようか。」
「ああ。」
それから一時間くらい個別にやっていた。
「蛇口を少しずつ緩める感じか。じゃあ体に流す魔力を少なめにしてみるか?」
「…なるほど、全身に回す魔力の量そのものを落とせば倍率も下がるな。アントンは体全体に流す魔力の量が無意識で制限されていたって考えるべきか。」
「体に魔力を流す管があるってイメージするってウォロさんが言ってたな。」
「じゃあ、レオはその管が大きいってことか。管を膨らませるイメージで多めの魔力を流してみるか。」
「…なるほど、5秒ぐらいで全身に広げられた。もっと広げるイメージでいけば、多分うまくいくな。」
「ごめ~ん!遅れた!」
「すいません。今日は早く帰ろうと思ったんですが、遅れてしまいました。」
シズクとヒカリが来たようだ。
「おう。来たか。」
「お疲れ様。」
「ねえねえ、何やってたの?」
「僕は身体強化の倍率を抑えるやりかたを探してたよ。」
「俺は身体強化の倍率を上げるやり方を探してた。」
「では、二人で教えあうのは終わったということでしょうか?」
「「そうだね。(な)」」
「じゃあ私たちにも身体強化ってやつ教えてくれない?後衛のつもりだけど、やっぱり物理で戦えたほうがいいじゃない?」
「そうですね。前衛が突破されたら詰んでしまうのは避けたいです。」
「いいよ。まずは魔力循環なんだけど、魔力循環って知ってる?」
「知りません。」
「私も知らないかな。」
「じゃあ、二人ずつで別れてやってみるか。」
「そうだね、そこで互いに教えあえばいいか。」
「じゃあ、グーとパーでわかれようか!」
「おお、久しぶりにやるな。」
「そうですね。」
「森の中で鬼ごっこしてた時以来だね。」
「「「そうだな(ね)(ですね)…。」」」
やばい、空気が死んだ。
「冒険者になったら、村に行ってみようか。」
「そうですね。」
「でも、その前にすることがあるよ。」
「だな。あの時の魔物を倒さねぇと村のみんなに顔向けできないしな。」
そう、それはこの街にジークさんに連れてきてもらってすぐに決めたこと。
僕たちが冒険者になることを決めた最大の理由。
「あの時逃げるしかなかったブラッディ・ベアの討伐、だね。そのためにジークさん達に手伝ってもらったんだ。」
「ああ、そのために強くなるぞ。俺たちはどこまでも!」
「「「お~!」」」
「じゃあ、グーとパーで別れましょうか。」
ようやく主人公たちの第一目標が開示できました。次かその次にこの街に来るまでの経緯を書くつもりです。