覚悟
「レオ、あんたはまだ冒険者になるって言うのかい?」
「う…」
「よく考えてから答えるんだよ。」
おばさんが突然放った威圧に戸惑いながらも、思考を巡らせる。
多分、おばさんは片目が見えていないことを問題だと思ってる。だとしたら、片目が見えていないことによって何か悪いことが起こるってことか。単純に考えれば、怪我しやすい、とか死にやすいとかか。それは自業自得だから、それは多分関係ない。っていうことは、
「…僕が片目しか見えていないせいで、パーティーメンバーも巻き込むかもしれないって言うことか。」
「へぇ、そこまで気づいているなら話は早い。あんたの幼馴染たち、確かアントンにヒカリにシズクだったね、彼らは冒険者になったらきっとあんたとパーティーを組むことを嫌がりはしないだろうさ。それどころか喜んで組んでくれるだろう。たとえ、あんたに右目が見えていないことを知ったとしてもね。実際、幼馴染ってだけで連携も組みやすくなるから、何も悪いことだらけってわけじゃない。でもね、もしもの時、それこそ魔物の襲撃を受けたときに片目が見えていないのはリスクになるんだよ。そうなったら、死ぬのはあんただけじゃない。
それにね、冒険者ってのは常にリスクにさらされているんだよ。だから目に見えたリスクは負わないべきだし、それに気づいたやつしか強くなれないんだよ。」
……確かにそうだ。これまで冒険者になったらパーティーを組むことは特に話してなかったけど何となくそうなるだろうみたいな雰囲気があった。このままパーティーを組んだら危険にさらされるのはアントン達もだ。ここは引くべきなのだろう。
「で、どうするんだい?」
でも、やっぱり…
「僕は、……、冒険者になるよ。」
「……話を聞いていたのかい?もしもの時死ぬのはあんただけじゃないんだよ?」
「だったら、もっと強くなればいい。片目が見えていないことが関係ないくらいに強くなればいいじゃないか。目で見えるより早く周囲の状態を認識できるようになればいい。」
「そんなことがあんたにできるのかい?」
「ジークさんが言ってたんだ。感覚強化は目とかだけじゃなく触覚も強化できるって。触覚を強化できれば目で見なくても大丈夫なはずだし。それ以外にも嗅覚を強化できれば目で見る必要はないよ。」
「……、そういうことかい。なら、少しだけ手伝ってあげるかね。
まあとりあえず、庭掃除は頼んだよ。これを付けてね」
おばさんは眼帯を差し出してきた。左目用の。
「これを付けてやるの?」
「そうだね。」
「左目用だけど?」
「そうだね。」
「付けたら何も見えないんじゃ?」
「そうだね。これくらい目が見えていない状態でできないと、魔物と戦うなんてできないよ。」
「そういうことか。…よし、やってみるよ。」
「はいはい。頼んだよ。」
よし、付けてみるか。…、うん。何も見えないな。じゃあ、始めますか。
地面に手を這わせて雑草を探していく。よし、見つけた。で根本はここら辺と。
……よいしょっと。
……ふむ、普段より抜くのに時間も力もかかるな。身体強化の練習もやってみるか。できるだけ弱く、弱く弱く……。
バチンッ!
「いたっ!」
「身体強化は使わないでやってみなさい。」
「え~?どうしてさ?」
「修行にならないでしょうに。」
「修行?」
「体を正しく使う修行だよ。」
「はあ。」
いつの間にかおばさんが庭に出てきたようだ。しかし、身体強化を使わないでか。身体強化の練習にもなると思ったんだけどな。まあでも、言われた通りやってみますか。ジークさんのことを昔から知ってるってことは、これもジークさんがしたことかもしれないし。
う~ん、やっぱりきついけど何とか抜けるな。このままやっていくか。
ゴソゴソ、ゴソゴソ、ゴソゴソ、…。
手が痛くなってきた。これはちょっとまずいかもしれない。最後までできるか?まだ感覚的には四分の一くらい残ってるんだけど。
「はい。一旦中断。眼帯外してみな。」
言われた通りに眼帯を外してみる。
「え?まだ半分しか終わってない?」
「どれくらい終わったと思ってたんだい?」
「四分の三くらい終わったと思ってたけど。」
「そうかい…。じゃあ、残りを眼帯外したままやってみな。」
「りょーかい。」
雑草を抜いていく。…あれ?さっきよりもかなり楽だな。どうしてだろう?身体強化も特に使ってないはずだし。
ゴソゴソ、ゴソゴソ、ゴソゴソ、…。
あっという間に終わった。さっきまでの五分の一の時間で終わったんだけど。
「はい、お疲れ様。今日のお小遣いね。」
「ありがとう。これ、ジークさんもやってたの?」
「そうだねぇ。ジークはこれを一週間ぐらいやってたね。…で、なにかわかったかい?」
「どうして眼帯付けていないときはあんなに速かったんだろう?」
「それは自分で考えないとだめだね。」
「それはそうか。」
「じゃあ、また明日おいで。」
「は~い。」
「いつ、気づけるかねぇ?」