2層 ボス戦 その4
その叫び声にはかなりの風圧を伴っていたようで、クイーンウルフの前で攻撃をしのいでいたアントンが僕達の方に押し出された。
「くっ!ただの叫び声なのにこの威力か……!」
アントンの唸るような声が聞こえてきた。
でも、僕達は離れているからか、ただ叫び声がうるさいくらいにしか感じない。
クイーンウルフの叫び声が収まるころには、アントンはクイーンウルフとの間合いの外にまで押し戻されていた。
そして、叫ぶのをやめるのと同時に
「グルルルアッ!!」
アントンにその巨体からは考えれないほどの素早さで向かって行った。
そして体重を乗せた前足をアントンにたたきつけた。
その前足をアントンは盾で受け止めようとしたが、
「ぐっ!」
受け切れずに僕達がいる後方に吹き飛ばされた。
これは、また攻撃食らったらアウトパターンかな。
一番体格がよくて、防御力が高いアントンでもこれだけ吹っ飛んだっていうことは、僕達は食らったらどうなるかなんてね普通にわかるよね。
はあ、最初から攻撃を食らったらダメな魔物が多いな。
オークといい、ブラッディベアといい。
さすがに慣れてきたけど、まったく気が抜けない。
それにこれまでは、しっかり防御すれば何とかなったけど、今回はそれでもダメ。
そうなったら、もう取れる手段も限られてくる。
だったら、
「アントンはクイーンウルフの攻撃を受けて!
ヒカリはアントンを全力で支援、シズクはできるだけ火力の高い魔法の準備をして!
僕は遊撃で少しずつ削るから!」
「任せろ!」「分かりました!」「分かったわ!」
こちらに向かって飛んでくるクイーンウルフの攻撃をヒカリとシズクの前に出てエクスカリバーで受け流しながら、叫んだ。
いや、重っ!
身体強化とかできる物全部つぎ込んで、しっかり受け流したつもりだったのに、これか。
やっぱり、僕じゃ荷が重いわ。
反撃することもできない。
おとなしく少しずつ削ることに専念しよう。
確かにこれじゃヒカリが攻撃に回れなくなるけど、それでもシズクの魔法1発の威力は僕の剣よりも高いから優先するべきはシズクだね。
何とかしのいでいる内に、ヒカリの支援魔法を受けたアントンが黒い体毛に身を包んだクイーンウルフと僕の間に盾を持って入ってきた。
「いつも通りにやるぞ!」
「おお!」
アントンに標的を変えたクイーンウルフが再びアントンにとびかかった。
でも、
「ぐ、おおぉぉ!!」
今回は少し押し戻されたけど、耐えて見せた。
そして、
「いまだ!」
誰もいない方向にクイーンウルフの攻撃をそらした。
しかも体勢を崩すようにクイーンウルフの動きの向きを下の方に向けてくれた。
前につんのめるようにして倒れ掛かるクイーンウルフに攻撃を仕掛ける。
最初は首とかじゃなくて、機動力を奪うために足を狙うべきだね。
どうせ修復されちゃうだろうけど。
「剣聖技 夢幻一閃・束!」
クイーンウルフの前足に僕の斬撃が当たる。
しっかり当たった手ごたえがあったけど、
「あちゃー……。」
全然だめ。
結構深い傷ができたけど、すぐに傷もふさがってしまった。
一応一番威力が高い攻撃だったんだけど、効果はなさそうか……。
まだ、前足両方とも同時に削れたら何とかなるんだけど。
でも、両手に剣を持って振るとか正直筋力的にきついし。
「レオッ!」
「グルルルアッ!!」
アントンが僕を呼ぶ声が聞こえてきたけど、その時にはもうクイーンウルフが目の前にまで迫っていた。
いやいや、動けるようになるの早すぎでしょ。
咄嗟にエクスカリバーで攻撃を受ける。
でも威力が高すぎて、受け切ることなんてやっぱりできなかった。
「ぐっ!」
思いっきり吹き飛ばされてボス部屋の壁にぶつかって止まった。
やばいな。
この感じHP半分切ってるだろうし。
ヒカリはアントンの支援をしてるから、とりあえずポーション飲んでおこう。
「ん?」
なんか、剣みたいなものが手に当たった。
こんなもの持ってたっけ?
そう思って手を見ると、そこにはエクスカリバーの鞘が落ちていた。
ぶつかった時の衝撃で腰から外れたのかな?
ん?
もしかして、これ使えるんじゃ?
「グルルルアッ!!」
クイーンウルフの声がまた聞こえてきた。
しまった、今アントンが一対一だ。
迷ってる暇はないから、とりあえず試してみないと。
「アントン!行ける!」
「任せろぉー!!」
アントンが普段聞かないような声で答えてくれた。
なんかちょっとハイになってないか?
ま、まあいいか。
「できたわよ!もう撃てるわ!」
そんな時タイミングよくシズクの声が聞こえてきた。
いいじゃん。
これなら勝負がつくかもしれん。
「次足斬った時に合わせて!」
そうシズクに答えると、クイーンウルフの動きに集中する。
動き自体は速いけど、複雑な動きはしてこなかったから割と目で追える。
来た!
「グルルルアッ!!」
「うおおおらぁっ!」
アントンがクイーンウルフの攻撃を受け止めて、
――きれいに受け流した。
ピシッ!
その瞬間、アントンの盾から決定的な音が漏れて、割れてしまった。
それを目でとらえながらも、目の前で倒れ掛かっているクイーンウルフに意識を集中させる。
うまくいってくれ!
「剣聖技 夢幻一閃・二束!」
この作品のリメイク、もしくは新作を年内の投稿します。
その時はよろしくお願いします。