2層 ボス戦 その3
ウルフに腹部を思い切りかみつかれた。
激痛が走り、膝をついてしまった。
くそ、隙間を抜けてきたのか?
でもそんな隙間をなくすように斬撃を放っていたはずなのに。
……いや、これはダメージ覚悟で突っ込んできたのか。
かみついているウルフは血だらけだ。
すぐに、斬撃を放ってかみついていたウルフを倒したけど、噛まれたところから血が出てきた。
しかもかなり深かったのか、流れる血の量も多い。
ああ、まずい。
集中力が、途切れる。
斬撃がとま、る。
そこまで威力が乗っていなかったとはいえ、ウルフ達の足を止めていた攻撃はとうとう止まってしまった。
そうなればどうなるかは、誰の目にも明らかだろう。
案の定、僕達の周りを囲っていたウルフ達が突撃してきた。
……今激しく動いたら、たくさん血が出て死ぬな。
本能的にそれが分かった。
でも、動かないとまずそうだ。
まだアントン達は動けないでいる。
シズクに至っては、完全にうつぶせになってしまっている。
……やるぞ。
いつも通りに魔法を斬るだけだ。
多少傷が深くなっても、後でヒカリなら治せるかもしれないし。
決意と共にエクスカリバーを持ち上げた。
これの効果でHPも自動回復しているし、大丈夫なはず。
「……剣聖技 夢閃十文字!」
僕達に向けられている魔法を切り裂くイメージで剣を振り下ろした。
パリーン!
ボス部屋の天井の方で何かが割れる音がした。
見上げると、魔法陣のようなものが割れてそれから漏れた光の結晶がゆっくりと降ってきていた。
それと同時に体が一気に軽くなった。
なるほど、天井に魔法陣があったのか……。
そこから風みたいな何かを下に向かって放てばさっきみたいになるのかな。
「切り裂け!嵐魔法 スラッシュハリケーン!」
シズクの声と共に、僕達の周りにつむじ風が起こった。
それに巻き込まれたウルフは残らず消滅していく。
それに加え、そのつむじ風は意志を持っているかのように自動で僕達の周りを動き始めた。
ええ……。どうなってんの?
前見た時はただ移動させるためみたいな魔法だったのに、今じゃあの風一吹きが斬撃に似たに何かなんだけど。
あんなのに巻き込まれたらどうしようもないじゃん。
「ヒカリ!早くレオを治して!これは長くはもたないわ!」
「分かっています!……できました!光属性魔法 ハイ・ヒール!」
ヒカリの魔法で僕のお腹に開いていた穴がふさがっていく。
でもさすがに流れた血は戻らないようで、気だるさは少し残っている。
まあ、アントン達も皆元に戻ったみたいだし、大丈夫でしょ。
もう一回同じことをすればもうクイーンウルフの前にたどり着けるはず。
「アントン!さっきのもう一回お願い!」
「任せろ!剣聖技 夢撃一文字!」
立ちふさがっていたウルフ達を斬撃が蹴散らしていく。
そしてそれを追うようにアントン達が走り出した。
僕は最後尾で何があってもすぐ対応できるように準備しておかなくちゃね。
前はアントンだけで十分だろうし。
それにもしかしたら、もう一回なんてこともあるかもしれないし。
その予想は当たって、あと少しでクイーンウルフのもとにたどり着くっていうところで、
「グルルルアッ!!」
もう一度クイーンウルフが大きく吼えた。
それど同時にまた体が一気に重くなったけど、さっきと同じくらいだ。
なら、行ける!
チラッと天井を見るとまた魔法陣が浮かんでいた。
今度もこれを壊せば大丈夫だろう。
「剣聖技 夢閃十文字!」
さっきと同じように魔法陣を切り裂くことができた。
それと同時に体も一気に軽くなった。
そして、今度こそようやくクイーンウルフのもとにたどり着いた。
クイーンウルフの足元にはまだ4つの魔法陣が存在していて、そこから無尽蔵にウルフが出てきている。
まずはこれを壊さないとな。
「剣聖技 夢閃十文字・乱!」
それぞれの魔法陣に十字の傷が入り、パリーンという子気味いい音共に壊れた。
「よし!あとは今いるウルフとクイーンだけだ!
クイーンは俺がやるから、ウルフはお前達でやってくれ!」
アントンがクイーン前に盾を持って立ちながらそう言ってきた。
確かに僕が時間稼ぎするよりもアントンがした方が安定するか。
「りょーかい!私たちは遠いのから魔法でやっていくから近いのは任せたわよ、レオ!」
「言われなくても!」
結局いつも通りだね。
ヒカリとシズクが魔法で遠いのを倒して、僕が近いのを剣で倒すっていうのは。
でもこれが一番効率がいいんだよね。
結果、あっという間に倒しきり残りはクイーンウルフとほんの少しのウルフだけになった。
その残ったウルフも順番に倒していった。
そして最後のウルフを倒した時、
「グルルアッ、グルルルアッ!!」
クイーンウルフがこれまで聞いたこともないほどの大きな声を上げた。
体毛の色を赤から黒に変えながら。