2層 ボス戦 その2
クイーンウルフが僕達を睨みながら、低い大きな声で吼えた。
「なっ!?」
次の瞬間、クイーンウルフの白い体毛が赤色に変わっていった。
そして、それを追いかけるかのように召喚されたウルフの体毛も赤く染まっていく。
「「「「グルルルアッ!!」」」」
体毛を完全に赤色に変えたウルフたちが怒りの咆哮を上げた。
あまりに大きかったその咆哮は離れたところにいた僕達の体も震わせた。
ウルフ達から目を離さないようにしながらアントン達に声をかける。
「……こーれは、ちょっとまずいかもね。
どうする?引くなら今のうちだけど。」
そうアントン達に問いかけながらも、対応策を考える。
逃げるなら、剣聖技とか魔法とかの遠距離技を乱発させればそこまで難しくないだろう。
攻めるなら、どうするか。
まず、さっきよりも感じる圧力が違う。
だから、いくら剣聖技といえどもさっきと同じようにうまくいくとは考えない方がいいだろうし。
だとすると、クイーンウルフだけじゃなくてただのウルフも無視できない。
だったら、ウルフが召喚されている魔法陣を壊さないといけないか。
……一番うまくいきそうなのは、4人で固まって一気にクイーンウルフの所まで行っちゃうことかな。
アントンと僕で前の敵を倒しながら、シズクとヒカリが左右の敵を倒しながらまっすぐにクイーンウルフに詰め寄れれば、なんとかなるかもしれない。
「攻めるなら、一気に4人でクイーンウルフのところまで行くよ。
そうすれば、一気に決着つけられるかもしれない。」
「……というと?」
「あのウルフたちはクイーンウルフの近くにある魔法陣で召喚され続けているんだよ。
だから、その魔法陣を壊しちゃえばそれ以上ウルフが召喚されることはないはずなんだよね。」
剣聖技 夢閃十文字なら魔法陣でも斬ることができるからね。
「なるほど……。なら私は賛成です。
まだ大して消耗もしていませんし。」
「私も賛成。
さっきまでが弱すぎたんだから、これからが本番って感じね。」
「俺も賛成だ。
せっかく使えるようになったことも試せなかったからな。」
お?皆賛成かな?
まあ、1層のボス戦でみんなレベルが上がったり、マサムネやセイメイに教えてもらったことで、できることが増えたんだろうし。
僕は結構試せたけどね。魔境生成と、神聖魔法 神域生成とか。
「なら、善は急げってことで。
前は僕とアントン、後ろをヒカリとシズクで。
とにかく周りのウルフたちを蹴散らしながらまっすぐ行くよ。」
「「「おー!」」」
「「「「グルルルアッ!!」」」」
僕達の声にウルフは大きく吼えることで答えた。
そして、その声を上げながら僕達の方に全員で駆け出してきた。
「行くよ!
剣聖技 夢幻一閃・乱!」
「蒼炎魔法 ファイアランス・ネオ!」
「氷魔法 アイスランス!」
僕の斬撃が前方の敵を切り裂く。でも、やっぱり当たった敵を全部倒しきれてはいないな。
で、その残った敵にシズクの青い炎の槍とヒカリの氷の槍が雨のように降り注いで、敵を光の粒子に変えていく。
あの青い炎はブラッディ・ベアと戦った時以来だな。
あれを魔法として打てるようになったのか。
それにヒカリの氷魔法も聞いたことないし。
僕達の遠距離攻撃のおかげで少し道が開ける。
でも、そこはすぐにウルフ達によってふさがれていく。
「どけえぇぇッ!!」
アントンがそう大声を上げながら、大きく足を踏み込んだ。
どしんっ!!
衝撃がアントンの前方に走り、道をふさごうとしていたウルフ達の動きを止めた。
そこを、
「剣聖技 夢撃一文字!」
アントンの放った斬撃が襲い掛かった。
僕みたいに手数がたくさんあるわけでは無いけど、文字通り一撃必殺の威力のこもった一撃だった。
その斬撃が通った場所に立っていたウルフ達は残らず消滅していた。
「行くぞおぉ!」
そしてアントンが自分で作った道を駆け出していく。
それの後ろに続きながら近寄ってくるウルフ達を斬撃や魔法で撃退していく。
このままだったらうまくいくかな。
そんな風に考えていた時、
「グルルルアッ!!」
――僕達の体がいきなり重くなった。
威圧にのされてとかじゃない。
ただ、単純に体が重くて動かなくなった。
僕は何とかまだ立てているけど、アントン達はあまりの重さに膝をついている。
……これは、まずい。
周りから大量のウルフが近づいてくるのが気配からわかる。
今立ててる僕が何とかしないと……!
「剣聖技 夢幻一閃・囲!」
僕達全員を囲うように斬撃を放ち続ける。
でも、これじゃ時間稼ぎにしかならない。
夢幻一閃・乱よりも範囲が広い代わりに威力が死んでいるからね。
今のうちに考えるんだ。
……これはもしかして魔法かな?
アシュタロトの時間魔法とかと比べると弱いけど、神様ならこれくらい魔法でできてもおかしくないよね。
だったら、夢閃十文字でこの魔法を斬れる、よね。
とりあえず試してみよう。
剣を振り下ろそうとしたとき、
「剣聖技 夢閃十文「ガウッ!」……ッ!」
ウルフにかみつかれた。