2層 ボス戦 その1
ボス部屋の扉を開けると、大きな狼が座っていた。
事前情報によると、名前はクイーンウルフ。
ステータスや能力は1層のラットクイーンの上位互換のような感じ。
だから基本的には1層とは真逆の方法で倒そうっていうことになったんだよね。
1層では召喚されるものの中で一番強いラットキングを僕が相手して時間稼ぎして、それ以外の雑魚をアントン達がすぐに倒すって感じだった。
でも、これだと僕の負担が大きいからっていうことで、僕とシズクで雑魚を文字通り瞬殺してその間をアントンとヒカリでボス本体とキングウルフを食い止める、っていう作戦になった。
「ワオォーーン!!」
僕達がボス部屋に入った瞬間、クイーンウルフが低く吼えた。
すると、クイーンウルフの前方に大きな魔法陣が、周りに小さい魔法陣が浮かび上がった。
そしてそれぞれの魔法陣から魔物が飛び出してきた。
「「「ワォーン!!」」」
合計でキングウルフが1体に小さいウルフが20体ほど出てきた。
そして大きい魔法陣が役目を果たして消えていく中で、小さい魔法陣だけはなぜか残っている。
……いや、多いー。
「じゃあ、そっちは任せたぞ!
ヒカリ、俺たちはキングウルフの相手だ!」
「はい。わかっています。
その前に、――オールブレッシング。」
僕達にヒカリの支援魔法がかかる。
「じゃあ、こっちもすぐ終わらせるよ。シズク。」
「任せなさい。私が奥の方をやるから手前はレオがやって。」
「うん。
あ、その前に行けるかな?
神聖魔法 神域生成 勇者の覇道。」
一応使えるかどうかの確認のために、クイーンラビットの時と同じように声に出した。
本当にもしかしたら使えるかもしれない、みたいな感じだったんだけど。
僕の目の前に白い魔法陣が浮かび上がり、そこから光の玉が4つ出てきた。
そしてそれが一つずつ僕達の肩上あたりに移動していった。
……あれ?こんなうまくいくものなのかな?
そんな困惑とともに、あの時と同じような全能感が体を支配していく。
これなら、本当にすぐ終わりそうなんだけど。
僕達の方に突っ込んでくるウルフ族の魔物を神域による空間把握で認識して、
「剣聖技 夢幻一閃・乱。」
剣聖技で全部斬った。
僕の剣が振り下ろされた瞬間、僕達に迫っていた魔物がすべて光を放って消滅していった。
ふう、なんでもやればできるもんだね。
そんな風に達成感を感じてすっきりしている僕とは正反対の声が僕の後ろから聞こえた。
さて、誰だろうなぁ?
「ねえ、レオ。
私の分は?なんで全部倒しちゃうの?」
まあシズクなんだけどさ。
シズクが倒すはずだった魔物も僕が倒しちゃったからちょっと不機嫌なんだろう。
いやでも、しょうがないじゃん?
全部倒せると思っちゃったんだもん。
「いや、ごめん。全倒しちゃった。」
てへぺろ。
「……はあー。今はボス戦の最中だから置いておくわよ。
私はヒカリの方に手助けに行くから、レオはあのクイーンウルフの相手をしてなさい。
1層と同じだったら、そろそろ動き出してもおかしくないわ。」
「了解。気を付けてね。」
そう言って、シズクと別れると、まっすぐにクイーンウルフの方に向かって行った。
そういえば、シズクってあんな話し方だったっけ?
前までもっと子供っぽい話し方だった気がするんだけど。
そんなことを考えている内にクイーンウルフの前にたどり着いた。
それなのに、クイーンウルフは動こうとしないで、ただ低く
「グルルル、ワンっ!」
と吼えた。
すると、
「ちょっ、嘘でしょ。」
まだ消えないで残っていた魔法陣から大量のウルフが出てきた。
数にしてだいたい30匹。
まあ、でも数がいくら多くても全部が一撃で倒せれば意味ないよね。
「剣聖技 夢幻一閃・乱!」
目で見えていなくても、神域のおかげで全部の魔物の場所を把握できているから、エクスカリバーを一振りするだけで全部の魔物を倒しきった。
魔物の消滅時に発する光に視界が覆われた。
ふう、これならいくらでも大丈夫かな。
そう思った時、感知に異常な何かが引っ掛かった。
「これは、……マジか?」
目の前にはさっきよりもはるかに多いウルフが僕とクイーンウルフの間に立っていた。
しかもまだ増え続けている。
「剣聖技 夢幻一閃・乱!夢幻一閃・乱!」
咄嗟に周りを囲まれないように剣聖技を周囲に放つ。
それだけで、回血の魔物はヒカリと共に消滅していくが、すぐに倒した分が出てきてしまう。
これは、
「ムリだな。」
出てくる魔物を全部倒し続けることはそこまで難しいことじゃない。
剣聖技を使い続ければ多分大丈夫だ。
でも、それだけだ。
今の僕には決定打になり得る攻撃をするには時間が足りない。
だから無理。
「僕一人だったら、ね。」
キングウルフの大きな気配が僕の感知から消えた。
アントン達が倒したんだろう。
「剣聖技 夢幻一閃・乱。」
後ろの方にいるウルフを蹴散らして、アントン達と合流する。
「待たせたな。これは……。」
「クイーンウルフに近づいたら魔法陣から大量のウルフが召喚され続けているよ。
だから、多分クイーンウルフを倒さないとこれは止まらないんじゃないかな。」
「なるほどな。しかも悪いことはまだあるみたいだ。」
「グルルルル、グルルルアッ!」
さっきまで寝そべっていたクイーンウルフが立ち上がって威圧のこもった低い大きな声で吼えた。