神話の時代の戦い その2
「はははっ!いいぞ、お前達は最高だ!
危うく死ぬところだったぞ!」
雷が落ちたところから大声が響き渡った。
でも死ぬところだったっていうのはどういうことだ?
全部巻き戻してなおせるんじゃないのか?
「まさかな、あの斬撃に反転効果を付与していたとは!
あの時の生死をかけた戦いを思い出したぞ!
ああ、楽しい。これこそが戦いだ!
さあさあ、今度は上げていくぞ!
―――――――。
―――――――。
時間魔法 揺蕩う宇宙時計。」
その魔法が発動した瞬間、視界が歪んだ。
どうなってるんだ?右目と左目とで見える光景が違う。
軽く腕を動かしてみると、同じ速度で動かしたつもりなのにまったく速度が違う。
なんか頭も痛くなってきた。
「くっ、いきなり飛ばしてきたな。」
「4人とも少し待ってね。……はい。
神聖魔法 聖神の抱擁。」
セイメイの魔法が発動すると、頭痛も視界の歪みも収まった。
どうなってたんだろ?
「―――――。
―――――。
剣魔法 星壊刀。」
マサムネが小さく詠唱すると剣の色が変わった。
綺麗な黒い刀身が根元からより黒く染まっていく。
それは剣を持っているマサムネの手の方にも上っていき、マサムネの手も黒く染めた。
それと同時にマサムネの小さい体からとてつもなく強い闘気ともいえるものが立ち昇った。
「お前も前出ろ。次で決めるぞ。」
マサムネが普段よりも一層低い声でセイメイに話しかける。
「分かったよ。確かにあれを放置してると、この星にもなんか悪影響ありそうだし。」
セイメイも杖を袖の中から取り出して、片手で構える。
そして音もなく二人の姿が消えた。
ボス部屋のところどころで魔法や斬撃の光が見えるけど、二人の姿は全く見えない。
そして、すぐ後に大きな爆発がアシュタロトの神域内で起こった。
まったく、面倒なことに巻き込まれた。
レオ達がダンジョンに挑むっていうから特剣天でヒナと一緒に眺めていたところまではよかった。
だが途中から、おかしいことになった。
ダンジョンのボスからありえないくらいの神力があふれてきた。
ダンジョンのボスは昔の天使達で、人の手によって倒されることが前提だったんだ。
だからボスから神力が多少あるのは当然だが、神域の生成までできるほど神力があるのはおかしい。
神域を生成されたら普通の人じゃ倒せないからな。
……まあ、レオ達は普通ではないんだが、それはこの際置いておこう。
あ。ラットクイーンが神域を生成した瞬間、レオが諦めたのが見て分かった。
ヒナの顔が怖いぞ。
まあ、私には関係ないからいいが。
おお!あの娘いいな!レオをぶん殴ったぞ!
ヒナも大きく拍手している。……いいのか、弟弟子だろう?
それにレオを置いて他の3人でラットクイーンに攻撃を始めた。
勢いはいいが、それじゃ当たらないだろう。
そもそも神域は文字通り、その中ではすべてが思い通りになるのだから。
まあ、使ってる神力の量にもよるがな。
それでも3人の攻撃をすべて無効化するくらいならできそうだ。
早くレオが参戦しないと本当に3人が死んでしまいそうだ。
3人ともこれから強くなるだろうから、生き残ってほしいんだが……。
お。ようやくレオが動き出したな。
しかも、神聖魔法を少しだけ使ってるぞ。まだまだだが。
その力で召喚された雑魚たちを瞬殺できた。
これならもう大丈夫か。
……は?なんで出てきてるんだ?天使は出てこないはずだ。
討伐されたらそのまま創造神のいる天界に運ばれるって。
しかも、アレは……。
まずい、早く回収に行かないと。
あそこに天使がいることがばれたら、ここが狙われる。
確かもうほとんど残ってないはずだったから、ここも落ちたらもう一回戦争するしかなくなる。
いや、私はそれでもいいんだが、創造神のやつがめんどくさいとか言ったせいで。
……間に合わなかった。いや、間に合うはずがなかった。
まさかもう手がここまで伸びていたとは。
しかも時間魔法のアシュタロトか。だが、何かおかしいところがあるな。
昔戦った時は勝負こそつかなかったが、つまり言ってしまえば全力の私と同じくらいということだ。
レオ達ではどう頑張っても勝てないだろう。
私もあの根暗坊主も神約を前の戦争の時破ったせいで、神気の薄い下界には降りられない。
あそこならもう少し神気が満ちればあるいはあるかもしれない。
だが、レオ達にそこまで時間が稼げるか。
もしできなければ、戦争開幕だな。
一応根暗坊主にも声をかけておこう。
ほう、レオのやつ星剣をまた創造魔法で出しやがった。
神力の覚醒はまだなんだがな。
……ああ、そういうことか。あの時のか。
まあ、あと少しで私たちも降りられる。根暗坊主もようやく起きたみたいだ。
でも、本当によくやってるな。レオだけじゃなく、他の3人も。
あの回復魔法の使い手は魔力切れの寸前まで回復を続けて、セイメイの所に行ってる攻撃魔法のは片腕だけ治したらすぐに戦場に戻っていった。
あの盾役の少年は最後の機会をうかがってるみたいだな。
確かに今できることがないだろうが、それで焦って自棄にならないのはいいな。
しかも的確に盾も使った。
アシュタロトの全属性に有利をとれる暗黒属性の攻撃によく食らいついた。
しかもいいことに、二人が神域を展開したおかげで神気が満ちる速度が予想以上だ。
あと少しで、降りられる。
最後の力を振り絞って放ったレオの攻撃は見事だった。
あの土壇場でよく剣聖技を囮に使ったな。でも、まだ神域について教えてなかったのが仇となったか。
アシュタロトの斬られた髪から伸びた時間付与された針がレオの動きを止めた。
でも、よく頑張った。
あとは私たちの仕事だ。
アシュタロトを直接見た時違和感の正体が分かった。これは本体じゃないと。ただの分体だと。
つまりこいつを殺してもアシュタロトには攻撃が届かないと。
だったら手の内をさらす必要はないな。
久しぶりの戦闘だから勘が鈍ってるかもしれないと思ったが、そうでもないみたいだ。
ちゃんと剣聖技もノーモーションで放てる。
一応軽く攻撃も撃ってみるか。セイメイは合わせられるか?
……問題なさそうだな。
神域を収縮させて神力の濃度を上げたか。だが、その程度であれば意味はない。
私一人ならまだしもセイメイもいる。性格は気に食わないが、実力だけは認められる。
飛んでくる魔法を目視だけで切り捨てながらアシュタロトとの距離を詰める。
ちなみに神域に入った瞬間に魔法が消えてように見えるのは、その魔法のある場所からアシュタロトが魔法を発動させているからだ。
剣に反転術式をセイメイに乗せてもらって、それで袈裟に切り裂く。
セイメイの魔法が飛んでくる気配とともに元の場所に戻る。
まあ、まだ倒しきれてないだろう。だが、今ので布石も打てた。
次で天使を殺さずにここにいるアシュタロトだけ殺せる。
ちっ。アシュタロトのやつ面倒な魔法を使いやがって。
私の目には時間の波のようなものがアシュタロトを中心に周囲にランダムに流れていくのが見える。
そのせいで時間感覚が少し場所が変わるだけでずれてる。
これはやつが好んで使っていた時間魔法の六門目の魔法だな。
厄介なことにこの魔法の効果範囲は異常に広い。
この星をすべて範囲に収めてしまうほどに。
次で終わらせるために、私の固有魔法である剣魔法の四門である星壊刀を持っている刀に付与した。
これは文字通り星すらも斬れる刀だ。
セイメイの準備も終わったみたいだ。
遅らせてくる時間の波をすべて斬り、加速させてくる波に乗りながらアシュタロトに迫る。
その結果、レオ達の目には何も映らないほどの速度になった。
見ておけとか言ったけど、見えないだろうな。すまん。
そして、アシュタロトの後ろについてすぐに剣を振った。
それと同時にセイメイが私の刀に神聖付与をした。
私の剣が天使の体諸共アシュタロトを破壊した。
外からは爆発したように見えただろう。
そこにセイメイが突っ込んできて、神聖魔法の中でも最上級の魔法である蘇生魔法を発動させた。
次の瞬間には何事もなかったかのようにその場に天使が眠っていた。