神話の時代の戦い その1
「よくやった、レオ。あとは私たちに任せろ。」
視界に和服を着た黒髪の少女と同じく和服を着た灰色の髪をした青年が立っているのが映った。
「おや?お前達はあの時の戦いの時に確か神約違反でこっちに降りてこれないんじゃなかったか?」
アシュタロトが二人に話しかけている。知り合いなのか?
「いや、降りてこれないのではない。
私たちは神気が満ちていないと生きていけないだけだ。」
「だから今まで降りてこれなかったけど、今だけはね。
ここは、よくか悪くか神気が満ちている。
おかげで僕達も降りてこれたのさ。」
青年の声はマサムネのに比べて軽薄そうだな。
多分あれが話に聞いていたセイメイかな。
「そうなのか。
……よくわからんな。
まあいい。お前達はここでなら戦えるんだろう?
なら久しぶりに戦おうじゃないか。」
「そうだな、だが――。」
マサムネが手を閃かせると、僕をとどめていた糸が斬られた。
「我が弟子たちは先に回収させてもらおう。」
すっと僕に軽く触れると、景色が変わった。
夜空が広がっていたはずなのに今は夕暮れ空が広がっている。
え?何が起こったの?
しかも星剣マサムネまでなくなってるし。
と半ば混乱しつつ周囲を見渡すと、隣にはアントン達3人が座っていた。
「うん、じゃあとりあえず治しちゃおうか。
神聖魔法 聖神の慈愛。」
僕達に頭上から光が降り注いだ。
するとみるみるうちに体が治っていく。
「うん、大丈夫そうだね。
起きたかい?シズクちゃん。」
さっきまで多分魔力切れで倒れていたシズクがゆっくりと目を開ける。
「うん?あれ、セイメイ?なんでこっち来てんの?」
少しにらみながらシズクがセイメイに話しかける。
なんだ嫌いなのか?
「そんな声出さない。助けに来たんだから。」
「お前、嫌われすぎだろ。それに助けに来ただけじゃない。
アシュタロトはここでどうにかしろと、創造神のやつが言っていたからだろう。」
「そうだけどさ。せっかくだから信頼関係を築こうと……。」
「「もう手遅れだ(よ)。」」
ガーン。と音がしそうなほど青年が落ち込む。
なんか大丈夫かな?
「もう終わったか?さあ戦おう、早く!」
アシュタロトがうずうずしながら二人に話しかけている。
「シャキッとしろ、根暗坊主。」
「なんだと、ロリババア。」
「あ?誰がババアだと?」
「あ?誰が根暗だって?」
……いや、喧嘩してる場合じゃないんじゃ……?
なんか二人の間に火花も散ってるし。
え、こわ。なんかアシュタロトよりも怖いんだけど。
「ちっ。相変わらずむかつくやつだ。
しっかり合わせろよ。」
舌打ちをしながらセイメイに話しかけるマサムネ。
「当然だ。僕は天才だからね。」
それに対して自信満々に答えるセイメイ。
……なんか仲良さそうだな。
「4人とも、よく見ておけ。」
「これから始まるのは神話の時代の戦いだよ。」
「見るだけで学べることはたくさんにあるだろう。」
「特に君たちのレベルだとなおさらね。」
その言葉を言い終わった直後、二人の放つ気配がガラリと変わった。
さっきまでの柔らかい雰囲気が抜け、張りつめた空気がボス部屋に満ちる。
そして空気に満ちる緊張が限界を迎えた時、
ガキンッ!ジュワッ!
――戦いが始まった。
アシュタロトが時間差で撃った二つの黒い氷塊のうち、片方をマサムネが袖の中で持っていた剣で斬り裂き、もう片方をセイメイが氷塊と同じくらいの大きさの火の玉で溶かしきった。
それにお返しとばかりに、マサムネが斬撃を放ち、それにセイメイが魔法で威力の底上げを行った。
その斬撃は空中で軌道を少しずつ変えながらアシュタロトに迫っていく。
それを一瞥したアシュタロトはその斬撃を杖で受け切った。
「ふふふ。
さあ、次だ。」
パチンッ!とアシュタロトが指を鳴らすと、夜空が小さくなっていく。
いや、あれは小さくなっていくというよりかは、
「……収縮している?」
アシュタロトの神域そのものは小さくなっているものの、夜の深さは先ほどよりも増している。
月もより赤くなっている。
もしかして、神域を収縮させることで効果を上げることができるのか?
だとするとあの中はさっきよりももっと危険な場所になってる。
そんなところにいるアシュタロトと戦おうとしている二人は――。
ちらっと、少し目配せをするとマサムネの姿が消えた。
それと同時にセイメイが大量の魔法を同時に発動させた。
光の玉、光の槍、光の波、光の矢。
それらが全部複雑な軌道を描きながらアシュタロトの神域内に全方向から入っていく。
神域に入ったそばから魔法が消えていくが、これは多分かく乱目的だからそれでいいんだろう。
速すぎて見えないけど、今この時もマサムネは機会をうかがっているんだろう。
そして、アシュタロトの目の前にマサムネが現れた。
と思った次の瞬間、アシュタロトの背後にいた。
……あれ?もしかして今斬ったの?
アシュタロトの体に斜めに切り傷が走っている。
そして、そこに大量の雷が落ちた。
「ふう。うまくいったな。」
「そうだね。前組んだのは何年前か覚えてないけど、なるようになるもんだね。」