VSラットクイーン その5
誰も気づかなかったことだが、この時レオ達4人の中で一つの大きな変化が起こった。
それは称号『復讐者』の3つ目の効果。
感情を貯めることと、復讐相手に防御力無視で攻撃することじゃない、最後の一つ。
それは、称号の進化。
進化する称号は今現在確認されていないが、その初めてが今起こった。
『復讐者』の条件である強い憎しみや怒りを持つ者が、新たに他の目標を明確に決めることができた時に進化は始まる。
だが、これはとても難しいことだ。
明確な目標を持つためには強い感情が必要だからだ。
『復讐者』を持つ者は最初の目標があまりに強い感情に支えられているせいか、次を見ることができない。
復讐を果たしたとしても、その後はたいてい燃え尽きてしまう。
だからこそ、それを成し遂げたレオ達は勇者になり得る。
ラットクイーンの放つ大量の魔法がまた3人に飛んでいく。
シズクも防御に回す魔力がなくなってきたみたいで、撃ち落とせていない魔法が先ほどよりも格段に多い。
これ食らったらいくらアントンでももう立ち上がれなくなるかもしれない。
「……行くよ。」
アントンに殺到していく魔法の数は合計で60個ほど。
できるか?……いやできなきゃ、ただでさえ傷だらけのアントンが死ぬ。だったら、できるよね。
これまでできたことはないし、理由もないけど、なぜかそう確信を持てた。
アントンの前に飛び出しながら剣を振り下ろす。
「……剣聖技 夢幻一閃・乱。」
僕の放った斬撃がすべての魔法を切り裂いた。
「ようやく来たか、馬鹿。待たせすぎだ。」
傷だらけのアントンがそう笑顔で言った。
「……バカはどっちだよ。
なんで僕のことなんか信じたのさ。」
「そりゃ、幼馴染だからな。お前が何考えてるのかはわかる。
だったら信じられるだろう。」
何を当然のことをといった感じで、アントンが返してくる。
「なんであきらめてくれなかったのさ。
そうすれば、僕はためらいなく切り札切れたのに。」
「そんなことしたら、レオが死んでしまうでしょう。
それでは意味がないんですよ。それに私たちは仲間ですよ。
レオだけに危険なことはさせられませんよ。」
ヒカリが優しい声音で語りかけてくる。
「なんで、僕を死なせてくれなかったのさ。
こんなことになったのは僕のせいなのに。」
「だーかーら、そうじゃないって言ってんでしょ。
私たちは4人で一緒なの。これは村長との約束があるからじゃない。私たちは一人でも欠けたら私たちじゃなくなるじゃない。
それにレオのせいじゃないでしょ。私たちもそう望んだの。レオにならついていってもいいって。」
シズクがあきれたように言ってきた。
そんな話をしてる間にもラットクイーンは魔法を撃ってくる。
でもまだどこか余裕があるな。戦うというよりは遊んでいるような感じだ。
そりゃ、相手の攻撃が当たらなくて自分の攻撃だけが当たったら気持ちいいだろうな。
今度はアントンだけではなく、僕達全員を狙ってるみたいだ。
多分もうヒカリとシズクも魔力切れだと思ってるのかな。
それともばらけさせれば僕が全部斬り落とせないと思ったのか。
でも、意味ないんだよね。
少し後ろの方に高くジャンプしながら剣をゆっくり振り下ろす。
「剣聖技 夢幻一閃・乱。」
ラットクイーンの魔法を再び全部斬り落とした。
「キシャアァァァッ!!」
うまくいかなかったことに苛立ちを覚えたのか、これまで放っていなかった威圧を叫び声とともに僕達の放ってきた。
それは神域がなくても常人であれば失神してしまうほどのもので、冒険者で威圧を向けられるのに慣れている人でも思わず動きを止めてしまうだろう。
ましてや、今はラットクイーンの神域生成も掛け合わさってボス部屋の空間そのものが軋んでいると錯覚するほどになった。
でも、
さっきまではそんなの放たなくても怖かったけど、もう怖くないよ。
「まったく、ほんとにみんな馬鹿だよ。
……ほんとにありがとう。僕はもう迷わないよ。
これまでも、これからも、みんなで生きよう。
神聖魔法 神域生成 勇者の覇道。」
自然と最後の言葉が口から出てきた。
その瞬間、ボス部屋の雰囲気が大きく変わった。
いや、僕達の周りだけ変わったのか。
僕達一人一人の周りに光の玉が浮かんでいる。
それが僕達の周囲に神域を作り出してる。
さっきまではラットクイーンの威圧が押しつぶさんばかりに放たれていたけど、それが今ではほとんど感じないくらいまで弱まった。
そして、ラットクイーンの優位性が失われたのを直感でわかった。
もうこっちの攻撃は入るし、ラットクイーンの攻撃も必中じゃない。
とはいっても、ようやく振り出しに戻っただけなんだけど。
でももう大丈夫。4人だったら勝てる。
「神がなにさ。前に立ちふさがるなら、たとえ神であっても踏み越えよう。」