僕の病名(前編)
決めたのかい?
うん
じゃあ聞かせて
もちろん
……本当にそれで良いの?
うん、だってこの一年は、???と一緒に過ごしたんだから。だめかな?
君が良いならそれで良いよ
じゃあ………
突然だが、僕は病院が嫌いだ。
特に注射!チクッとして痛いし、針が刺さっている時は心臓の音がバクバクと鳴って怖い。
だから言いださなかった。
最近頭が痛いのだと……
時々クラクラして立っているのが辛くなる。
でもそれは一瞬で、しばらくすると何も無かったように痛みも消えている。
だから気にしてなかった。
でもついに学校で給食中に倒れてしまったのだ。
流石に病院に行くしかないと思って、仕方なく検査を受けた。
眼鏡で若くも見えるし、老けても見える先生が見て言う。
「落ち着いて聞いてください。恐らくです友一くんは、世界で初めて確認された病気にかかっていると思われます。全力を尽くして友一くんの命を救おうと思いますが、病気が病気なので……」
母さんは不安の顔で先生に縋る。
「先生!友一は、友一は治るんですよね!?」
「申し訳ありません。今の段階ではなんとも、ですが、このままだと一年程で……」
そんな風に話す先生の説明を聞き涙を浮かべる母
しかし、当の本人である僕はなぜか他人事の様に聞いていた。
だって、僕まだ14歳だよ?
そんな簡単に死なんて受け入れられるわけがない。
いつか来るであろう死は、僕が思っていたよりもずっと近くに居たのだと、理解するには僕はまだ幼かった。
そんなわけで入院することになった。
入院生活は学校と比べて楽しい。
定期的に検査を受けて薬を打つ。
注射は嫌だけどね。
それ以外の時間は好きにしていても良いのだ。
初めは緊張していたが、1ヶ月も経てば慣れてくるというもの。
何をやろうかな?
漫画も読み放題だし、テレビをずっと見ていても怒られない。
そうだ!この間買ったポケモンの新作、まだクリアしてなかった。
忘れかけていたゲーム機に手を伸ばす。
初めのうちは両親も勉強をしなさい!と言ってきていたが、弱っていく僕を見て何も言わなくなった。
ホーム画面を開いたところで病室のドアが開く。
僕の担当医だ。
「調子はどうかな?」
「絶好調だけど?」
「おっ!ポケモンか〜懐かしいな、おじさんも昔よくやってたよ。赤とか緑とか……」
最近分かったのだが、この先生はうちの両親の前では猫をかぶっているみたいだ。というよりも僕にフレンドリーに接してくれているのかな。でも無理矢理話題を作ろうとしているようにも見える。
「……それではじめの草むらでレベルを…」
「もう良いから!ポケモンは。それで、今日の検査は終わったんじゃないの?」
ポケモンを語る先生を中断させ、本題を伺う。
「そうだった。君の病名は僕がつけて良いらしいんだけど、ぶっちゃけ僕そういうの苦手だから、君に意見を聞きたいな、と思って来たんだ。」
なるほど。僕のかかったこの病気、新種だったらしいが、名前を付けさせてもらえるということか。でも急に言われても思い浮かばない。
「分かった、考えておく」
と言いながらまるで考えようとしない。
まぁ、あと一年はあるし気長に考えよう。
僕の病気は、症状以外あまり分かっていないことが多い。
脳の一部が急激に性能を低下させていき、まともに思考できるのはあと1年程度。その半年後には完全に死に至るらしい。
だから、僕の余命は僕にとってあと1年間だ。
1年も時間があれば大概なんでもできそうに感じる。でも意外とベットの中での1年は短いんだろうなぁ、
すると、先生が看護師さんに呼ばれ病室を去っていった。
「じゃあ、また明日ねー」
「はーい」
友達のようなノリで僕は返事を返す。
病名を考えることを僕は頭の片隅におき、開いたゲームにのめり込んだ。
そろそろ夜中の2時になる。中学2年生の僕が起きているには遅い時間だ。
まったくポケモンの誘惑は恐ろしい。
ついつい長引いてしまった。
いい加減ゲーム機を閉じて、机にしまう。
見回りの人に見られてないか確認し、
良かった…大丈夫そうだ、
と思ったのも束の間。僕の隣には綺麗な女の子が立っていた。
「う、うわぁ!」
驚いて僕は大きく後ずさった。
すると見回りの人が来て僕に尋ねる。
「どうかしましたか、大丈夫ですか?」
いかんいかん。
僕はすぐさま返事を返した。
「大丈夫です。ちょっと怖い夢を……」
見回りさんはクスッと笑って戻っていった。
恥ずかしい……
でもそれよりも今見た子は誰だろう?
周りを見回すが、誰もいない。
気のせいか?いや、そんなわけ無い。あんな鮮明に幻覚を見るわけ無い。
だか、とうとうその子は見つけられなかった。
幽霊だったらどうしよ…なんて馬鹿なこと考えながら僕は床に着いた。
今日も今日とてポケモン日和。
雨にも負けず風にも負けず新種の病気にも負けず。
すると、午後2時を回った頃だろうか、
病室内にノックの音が元気に響く。
「お見舞いに来たよー」
花を抱えて同じクラスの美咲が病室に入って来た。
「おっ!久しぶり〜元気?…はおかしいな」
こいつは拓哉。俺と小1の頃から一緒の親友だ。来てくれてすごく嬉しい。
「ちょっと〜2人ともそんなうるさくしちゃダメだよー」
この煩いのが、佳奈。なんだかんだこいつが1番声がでかい。
後の男子2人は、待っていたが、何も言わずに仏頂面だ。この2人は苦手だ。なんというかノリが合わない。
「久しぶり〜。お見舞い来てくれてありがとー」
返事を返すと3人が一斉に喋り出した。
聞き取れない。
「僕は聖徳太子じゃないんだけど……」
3人は口を止めて謝る。
「ごめんごめん久しぶりだったからつい」
謝る声も重なってる。
30分程した頃だろうか、
僕達が学校の事や病院生活のことを話していると、他の2人が初めて口を開く。
「なぁ、もう挨拶したんだし帰ろうぜ」
「長えよ。この後本屋行くんだろ?」
苛立ちを隠しきれない顔で、退出を提案してきた。
クソっ!もっと話してたかったのに……
こいつら全く話してないし、多分だけど美咲が好きだからついてきただけだろう。
僕も好きだ。
整った顔立ち。
白人の如く白い頬。
子猫のように高く可愛いらしい声。
地毛かと疑う程贅沢なまつ毛。
この子がクラスでモテるのは必然だと思う。
本人もなんとなく気づいてるみたいだけど、どう反応すればいいのか分からないみたい。
そこもまた可愛い。
いつまでも見ていられそうに思ったが、僕の思いも虚しく、美咲は慌てて時計を見る。
「そうだった!危ない危ない。ありがとう、教えてくれて」
2人にお礼を言った美咲に、心の何処かでよく思わない自分がいた。
嫉妬しているんだと思う。
好きな子が苦手な奴にお礼を言った。
それだけの事なのに…
自分はもっと強い人間だと思ってたけど、
そうでもなかったみたいだ。
「そうなんだ。だったら早くいきなよ。あそこまあまあ遠いでしょ?」
まだいて欲しいとは言えなかった。
すると拓哉が言った。
「あ、俺はもうちょい居るから。別に本屋行かねーし」
それに続いて佳奈も残ると言う。
美咲が残らないのは残念だが、2人がいるだけでも全然嬉しい。
彼らとは死ぬまで友達でいようと心に誓った。
今日も遅くまでゲーム。
といきたいところだが、充電切れだ。
昼間やりすぎたみたい。
仕方がないから今日はもう寝よう。
夜9時。
幽霊が出るには早すぎる時間。
ふと寝返りを打つとそこには言い表せない程の美少女がいた。
艶のある黒髪
やや痩せ気味の体
美咲ちゃんよりも白い肌
というか青白い
死人みたいに
彼女は可愛いピンクの唇を、そっと開き尋ねる。
「君は病気なの?」
「え、あ、うん」
咄嗟に答えたが、彼女は誰だろう?
「私はここの地縛霊。名前は石塚美穂」
「は?」
意味が分からない。
「だから、私は昔ここで死んで、ここに居座り続けてるの」
「じゃあ幽霊って事?」
「そんな感じかな」
なんだろう……初めての幽霊との対面がこんな風になるとは。全然怖く無い。
しばらくの沈黙の後彼女は何故僕の目の前に現れたのかを教えてくれた。
「私戦時中にここで空襲にやられたの。でも、弟の事が心残りで地縛霊になって、まぁ、弟は立派に成人してとっくに亡くなったんだけど、それからずっと1人だから寂しいんだ。
だから時々話し相手が欲しいの。でも中々私を見れる程霊感強い人いないんだよね」
「僕は霊感が強いのかな?」
「多分だけど死が確定した人間だからじゃ無い?
死が確定した人間は普通の人間よりもこちら側に近いからね。その証拠に何度か君の前に出てきたことあったけど、反応したのはついこの間だもん」
「じゃあ僕はもう絶対に助からないのか」
「厳しいこと言うとそうなるね」
まぁ、覚悟はしてたけどこう言われると少し悲しい。
「でも意外だな、人は死んだら無に帰ると思ってたのに」
「そういう人はあんまりいないかな。でも、私みたいに現世に留まるパターンはもっと珍しいけど」
「じゃあよく心霊スポットとかで出るのは……」
「十中八九デマ」
嬉しいような悲しいような感じだ。
「そういえば君、あの色白ちゃんのこと好きなの?」
「ん?そうだよ」
アッサリ認めると彼女は少し驚いていた。
「もっと誤魔化すかと思ってたよ」
「まぁ美咲の事好きなのは事実だし、幽霊相手にバレても何も困らないから」
「へぇ、告白したりするの?」
「僕そのうち死ぬんだけど」
「そんなのみんなそうじゃん、死ぬまでの間でもあの子に愛してもらえれば君のポケモン人生、もっと色づくんじゃない?」
「誰がポケモン博士だ!」
「ごめんそこまで言ってない。とにかく、君はもっと恋愛に積極的になりなよ。このままだと、伴侶に看取ってもらえず、独り身で人生寂しく終わるよ」
「いやまぁ、別に恋人になろうがなるまいが、あの3人なら僕の最後くらい看取ってくれると思う」
「そんなふうに余裕こいてると、あの子誰かに心移りしちゃうかもよ。可愛かったし狙ってる子多いかも……」
「そりゃ嫌だけど…ってか君の方が可愛いだろ」
「えっ……なに?もしかして私に気があるの?」
「んなわけあるかい。単に容姿が整ってるってだけ」
素直に可愛いと言いたくなかったのだが、
「そんな褒めないでよ!今世紀最大の美女なん…」
「ごめんそこまで言ってない」
馬鹿みたいな会話を続けていたらいつの間にか夜の1時になってた。時々見回りさんが不審な目でこっちを見てきていて視線が痛かった。
これが、僕に夜の会話相手ができた瞬間だ。
夏休み。
それは一部の例外を除き、学生達の心を弾ませ、大いに遊び、日に焼け、旅行に行き、最後には宿題に追われる。一年の中でなくてはならない行事だ。
当然僕も大好きだった。
その例外の中に入るまでは…
入院生活の中で夏休みなど関係ない。
こうなると、夏休みなんてあろうがなかろうがちょっとどうでも良い感じがする。
休日に祝日が来た時みたいな。
ああ…この一か月分の休みをどこかに保存しておいて、後で自分だけ楽しんだりできないだろうか。
そんなこと考えながらゲーム機に手を伸ばすと、病室のドアが開く。
拓哉達だ。他2人はいない。
「久しぶり〜今日から夏休みだから毎日来れるぜ〜」
なんだ、夏休み良いじゃないか!
…
…………
……………………
………………………………………
あれから毎日拓哉達は来てくれてる。
ありがたい事に、毎回お菓子を持ってきてくれるのだ。
で、そのお菓子は僕ではなく目の前の幽霊が食べている。
「だって、あんたどうせ食事制限で食べれないんでしょ?だったら私が有効活用してあげるよ」
「いや、まぁそうなんだけど」
なんか腑に落ちない。僕のためのお菓子だったのに……
「というか、幽霊ってお菓子食べれるんだ」
満面の笑みでうめぇ棒を貪ってる、3つ同時に。
「ふん。へんへんふえる。ふかひはぁーあんはも」
「オッケーわかった。食べてから話せ」
「ん、…………ゴクッ、……ふぅ、いゃあ〜今のお菓子ってめちゃくちゃ美味しいね。戦時中じゃ考えられなかったよ」
「そんなに好きなら今度何かまた探してきたげるよ」
「ほんと!?あんた神!今なら頭なでなでしてあげようか」
「いらない。で、さっき言いかけだった事は?」
「あぁ、別に幽霊がみんなご飯食べれるわけじゃないって事。私は幽霊として格が低いから人間に近いし、ご飯も食べれるけど、格が上がるとその分人間らしい事はできないし、霊感が低い人間でも見えるようになったりするの」
「ふーん。なんか君と話してるとオカルトな雑学が増えるな」
「そりゃ曲がりなりにも幽霊だしね」
「曲がりなりじゃない幽霊なんているのかよ」
「いるよ?たまにね。君もそれに近いかな」
「は?僕もう幽霊になってんの?」
「うーん…というより、君みたいに生死の狭間の人間は幽霊見えたり、幽体離脱できたり、なんかやたらと勘鋭かったりする」
「幽霊は見えるけど幽体離脱とか無理なんですけど」
「まだ寿命に余裕があるからだと思う。そのうち出来るようになるよ、その頃には君の体も自由が利かなくなってるかもだけど」
そっか〜、幽体離脱か〜。早く出来るようになりたいなぁ…そしたら……
「どうせ君エロいこと考えてんでしょ」
ぎくり
「別に、ただ興味があるだけ」
「無駄無駄、幽体離脱なんて自分の肉体からそんなには離れられないのよ」
なんだ、残念
「精々1キロちょいかな」
「いや、のぞきやるには充分過ぎる距離だろ」
「あれ?やっぱりのぞく気だったじゃん」
「あ……」
……ニヤニヤしてる美穂のことを殴ってやりたい
これから毎晩コイツと話すとか地獄だ。
人気があれば中編書くかも…