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番外編4:卒業、そして

リクエストがあったので数年後の話をちょこっと書いて見ました。

「それでは、改めまして」


誠一の部屋で、誠一と詩遠は正座して向き合っていた。

雰囲気は重苦しいものではなく、その証拠に二人の口元には笑みが浮かんでいた。


「卒業おめでとう、詩遠」


「こちらこそ、卒業おめでとう、誠一」


向かい合ったまま、深々と頭を下げあう二人。

顔を上げて互いに見つめあった後、どちらからとも無くぷっと吹き出した。


「あはは! なんだか今さらって感じだよね」


「うん、確かにね〜。でも私にとってはやっと、って感じかな?」


詩遠はそう言うと中腰になって誠一に近寄り、寝転がるようにして誠一の膝に自分の頭を預けた。

今日は誠一と詩遠が3年間お世話になった高校に別れを告げた日、卒業式。

つい先ほどまで友人たちと飲めや歌えやの大騒ぎをして、帰ってきたら家族からの盛大な歓迎を受け、ついさっき部屋に戻ってきたところであった。

膝を枕にされた誠一はそっと詩遠の髪を撫でながら続ける。


「確かに、プロポーズから数えて大体2年半くらい?」


「もうそんなになるんだ、長かったようなそうでないような……」


ふっと詩遠が遠い目をする。

思い返すのはあの夏の日、今までの人生で一番嬉しかったといっても過言ではなかった日。

二年半が過ぎた今でも昨日のことのように思い出せる。


「そして、明日にはついに……」


意識せずに二人同時に部屋の真ん中に置かれたテーブルの上に目をやる。

そこには、一枚の書類が記入済みで置かれていた。



「私、『朝倉詩遠』じゃなくなっちゃうんだよね……」



少し寂しげに、詩遠はそう呟いた。



――――高校を卒業したら、籍を入れよう。



それが、二人の間で交わされた約束。



「うん、詩遠は『渡瀬詩遠』になる」


誠一はゆっくりと詩遠の髪を撫で続ける。

ずっと撫で続けてきたというのに、詩遠を撫でるという行為に飽きというものを感じたことは無い、きっと一生感じることは無いだろうと誠一は思っていた。






「あ、そうそう。詩遠に渡さないといけないものがあったんだった」


「渡さないといけないもの? 私に?」


「うん、だいぶ時間かかっちゃったけどね……あ、あったあった」


誠一が取り出したのは手のひらサイズのきれいに包装された箱だった。


「いやー、給料三か月分だって言う話だけど結局僕のバイト代じゃ1年分以上かかっちゃった」


「え、まさか……」


高校二年生から誠一はバイトを始めた。どうしてバイトを始めたかと聞いたらデート資金のためだと答えられて赤面した覚えがある。

でも、それ以外の目的があったとしても不思議ではない。


誠一は詩遠の手を取り、そっとその箱を握らせた。


「詩遠、開けてみて」


「う、うん……」


震える手で包装を破かないように丁寧に広げていく。

出てきたのは青い小さな箱、それをゆっくりと開くとそこには小さな宝石の乗った指輪が収められていた。



「ちょっと、ていうかだいぶ遅くなったけど僕からの婚約指輪……遅すぎたかな?」



その言葉に、詩遠は首を横に振った。



「どうしよう誠一、嬉しくって、嬉しすぎてなんて言って良いかわかんないよぉ……」



詩遠の声は震え、目には涙が溢れていた。

そんな詩遠の顔を隠すように誠一は詩遠を抱きしめ、自分の胸に詩遠の顔を埋めさせる。



「詩遠、愛してる……ずっと、ずっと」



「わ、私も……誠一のこと、ずっと、ずっと愛してる……!」



二人は、詩遠が泣きつかれて眠りに落ちるまで、ずっとそのまま抱き合っていた。


「ん……すぅ……」


「おやすみ詩遠……」


眠ってしまった詩遠を抱きかかえ、ベッドに寝かせると誠一は優しい笑みを浮かべて詩遠の頬を撫でる。

そして居間でまだ騒いでいるであろう親たちのところへ向かうため、電気を消して部屋を出た。






暗くなった誠一の部屋の窓から月明かりが射し込む。


穏やかに眠る詩遠の左手の薬指には、銀色の指輪が月の光を反射して輝いていた――――。



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