エピローグ:ずっと隣に
僕らの関係が『幼なじみ?』から『婚約者!』に変わった後、旅行から帰ってからすぐに互いの両親を集めて報告した。
詩遠のお父さんに「娘さんを僕にください」と言ったら「はいどうぞ」とあっさり答えが返ってきたのでちょっとびっくりした。
他の親も僕らの事を受け入れ、祝福してくれた。
というか、親たちとしては既に僕らは恋人関係にあるものとばかり思っていたらしい。
「まだ手を出してなかったんだ」と逆に驚かれてしまった。
「おめでとう」「よかったね」と口々に言ってくれたので詩遠と一緒にちょっと涙ぐんでしまった。
僕らが婚約したことは詩遠が友人一同にさっさとカミングアウトしたので学校であっという間に知れ渡った。
一部の人たちからは猛烈な殺意の視線を向けられる羽目になったけど、他の人たちからはおおむねからかいつきでお祝いの言葉をもらえた。
そうそう、今回一番迷惑をかけた須藤について言っておかなければならない。
須藤はどうやらハム子ちゃんのことが気に入ったらしく、旅行中やその後も色々アプローチをかけているようだ。
でも、女装が災いして本気に受け取ってもらえないらしい。
まあ須藤の性格というのもあるんだろうけど。
「じゃあ女装止めたら?」と言ってやったら「それは無理」と笑って答えた。
現状を楽しんでいる節もあるし、なるようになるだろうと僕は思っている。
そういえば、二学期が始まった頃須藤から以前無くしたと思っていた折り畳み傘を渡された。
なぜ須藤が持っているのかと聞いてみたらはぐらかされた。まあ傘が返って来たのでよしとしよう。
そして二学期も半ばを過ぎた頃、僕と詩遠は相変わらず僕の部屋でのんべんだらりと過ごしている。
「婚約しても、前とほとんど変わらないね私たちって」
僕のベッドでごろごろしながら詩遠がそうぼやく。
「でも旅行から帰って2、3日は詩遠すごいギクシャクしてたよね」
僕は壁に背を預けて床に座ってマンガを読みながら答える。
「う……だって、それは、まあ色々と実感がわいて混乱してたから……」
「僕の部屋に直立不動でかっちこちになってたからどうしたのかと思っちゃった」
「もう! いいじゃないその話はもうやめよ!」
がばりと詩遠は起き上がると、僕の隣に腰を下ろした。
僕の肩と詩遠の肩が触れ合う。
僕らはどちらからとも無くちょっとだけ体重を預けあった。
「なんていうか、幸せだねぇ……」
「私は、もうちょっとだけ幸せになりたい、かな?」
「これ以上どうやって幸せになるって言うのさ」
それに詩遠は答えず、ちょんちょんと僕の肩を指でつついた。
「ん、どうしたのしお……」
振り向くと、詩遠の顔がすぐ近くにあって、
ちゅ、と唇に柔らかなものが触れ、すぐに離れた。
「あ……」
「ほ、ほら、もうちょっと幸せになれた、よ?」
えへへ〜、と笑う詩遠は自分の行動に照れているのか頬を真っ赤にしていた。
僕らの、はじめての、キス。
ああもう、これ以上ないと思っていたのに、さらに詩遠を好きになっていく。
「ど、どう? 幸せになった?」
「……今のじゃ、ちょっと分からなかったかな?」
そう言って僕は詩遠の肩を優しく掴み、ゆっくりと引き寄せる。
詩遠は僕が何をしたいのか分かったようで、そっと目を閉じて顎を上げた。
「詩遠……」
「誠一……」
幸せは積み重なっていく。
いままでも、そしてこれからも。
隣にいるあなたがくれるこの幸せを、このぬくもりをずっと感じていられますように――――。
作者の砂糖菓子です、ここまで『お隣の詩遠さん』にお付き合いいただき誠にありがとうございます。
気楽な幼なじみのスローライフ(?)を書きたいと思ったのはもう何年も前のことです。
PCの片隅で数話だけ書いて眠っていたこの作品を読み直して、きっちり書き上げたいと思ったのが初投稿の始まりでした。
読んでみていかがだったでしょうか?
この話で、ちょっとでも笑ったり、心が暖かくなってもらえれば作者としては幸せです。
それでは今回はこの辺で、本当にありがとうございました。