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第48話:想い

人生の分かれ道というものは一体どこにあるのか、それは分かれ道に立ってみるまで分からない。



「大事な話があるんだ」



そう言う誠一の顔はずっと誠一のことを見てきた私が見たことも無いほど真剣で、どこか切羽詰っているようで。


彼の握り締めたこぶしが小さく震えていることに私は気がついて。


だから私は――――。






旅行二日目の昼、二日酔いらしい須藤君とハム子ちゃんのために私と誠一は酔い覚ましの薬を買いに出ていた。

らしい、というのは私には昨日の記憶がまったくと言っていいほど存在しないから。


お酒を飲んでいたときのことを全く覚えていない人がいるという話は知っていたけれどもまさか自分がそうだとは思わなかった。

本で読んだ話ではそういった人は大抵記憶の無い間にひどい醜態をさらすらしい。


私はちらりと横を歩く誠一の顔を盗み見た。


誠一はどこかぼうっとして……いつもぼうっとしているイメージはあるけどそれに増してぼうっとしている。

言うなれば心ここにあらずといった感じだ。


普段ならこうして私が誠一のほうを盗み見ているとすぐに気がついて『どうかした詩遠?』と優しく問いかけてくれるはずなのに一向に気がつく様子は無い。


いや、別に気がついてくれないのが寂しいわけではないよ? 断じて、絶対。


もしかしたら昨日お酒を飲んだときに誠一に酷い仕打ちをしてしまったのかもしれない。

そう考えると朝から誠一の様子がどこと無くおかしかったことにも説明がつく。


「ねえ、誠一……?」


「……」


とにかく何があったのか聞き出さないと何に対して謝ればいいのか分からない。


それを聞くために私は恐る恐る誠一に声を掛けたけれど、反応が無い。耳に入っていないみたい。


「ねえ、誠一ってば!」


「……え、なに? どうかした?」


誠一の腕を掴んでゆすると、やっとこちらの呼びかけに答えてくれた。

これは重症かもしれない。

同時に誠一がこんな風になってしまう自らの行いが何だったのか聞くのが少し恐ろしくなる。


それでも私は勇気を出して問いかける。


「昨日なんだけど、私誠一に何かしちゃった?」


昨日の話を切り出すと、誠一は酷く動揺した。

……やっぱり昨日何かしちゃったんだ。


「え、えっと……」


「お願い誠一、私が昨日何をしたのか教えて。誠一が朝からずっと上の空なのは私が何かしちゃったからなんでしょ?」


「それは……」


「私のことで、誠一が辛かったり苦しんだりして欲しくないよ……」




誠一を傷つけたのならその傷を癒したい。




誠一に辛い思いをさせたのなら償いたい。




私と誠一の間に流れる想いにマイナスの感情はいらない。




ただ純粋に好きでいたい。




……そう思っているのはきっと私だけなんだろうけど。




「……ああ、そっか」


不意に何かに気がついたように、誠一は悟ったような笑みを浮かべた。

全てを(いつく)しむような優しい目をして、誠一は言った。


「詩遠、今日の夜九時に旅館の駐車場まで来てもらっていいかな?」


「それってどういう……」


私は言葉を続けることが出来なかった。


誠一の顔が今まで見たことも無いくらい真剣な顔をしていたから。





「大事な話があるんだ」




そういう誠一の手が細かく震えていることに気がついて。



だから私はその場で頷くことしかできなかった。



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