第46話:須藤の忠告
ちょっとシリアス入ってます
「ふぅ……」
ひと泳ぎして海から戻った僕はパラソルの下でどっかりと腰を下ろした。
詩遠とハム子ちゃんは波打ち際で戯れている。
須藤は……あれ、どこ行った?
「はい、お疲れ様」
そう言ってすっと缶ジュースが差し出される。
「ありがと、ちょっとのど渇いてたんだよね」
須藤からの差し入れをありがたく受け取ると、赤いワンピースの水着とパレオを身に着けた須藤は僕の隣に並んで座った。
ふたを開けて一口ごくりと――――
「っ〜〜〜〜!?」
途端に口の中になんともいえぬ味わいが広がる。
しゅわしゅわとしつつも渋みがあり、かと思えば鼻を抜けるような味……つまるところ、おいしいとは言いがたい。
食べ物を粗末に出来ない僕は必死の思いで飲み干し、缶を確認した。
『炭酸アイス梅昆布茶・ミント風味』
「…………よくこんなの見つけてきたね」
というかよくこんなもの売る気になったと言うべきか。
う〜、口の中が気持ち悪い……。
「ん? 向こうの自販機で売ってたから買ってみたけどやっまりまずかった?」
「かなり」
「そっか、渡瀬に飲ませてよかった」
親友に殺意が芽生える一瞬があるとすれば今まさにそうなんじゃないかなあと思う。
「ねえ、渡瀬はいつまでそうしてるつもりなの?」
「もうちょっと休んだらもうひと泳ぎしようかと」
「そうじゃなくって……朝倉さんのことだよ」
「詩遠? 詩遠がどうかした?」
須藤の方を振り向くと、滅多に見せないような真剣な顔をしていた。
その視線はまっすぐ僕のほうを向いている。
……どうやら真面目な話らしい。
「どういうこと?」
「私たちはこれから大学に行って、社会に出て働いて、年をとっていく。そうやって流れていく時の中で、君たちはいつまで『ただの幼なじみ』でいるのさってこと」
僕と詩遠はただの幼なじみではないような気はするけど、だったら何だと問われると答えられないのでそこは置いておくことにする。
「……それは悪いことかな?」
僕にはそれの何が悪いのかが分からない。
だって、今の関係は僕にとっては心地よいものだからそれが続けばいいと思う。
「いつまでもただの幼なじみじゃいられないってだけ。気がついたときには手遅れって事が無いようにね」
言いたいことは言ったのか、須藤はさっさと立ち上がって詩遠たちの元へ駆けて行った。
……ずっと、このままじゃいられない、のか?
遠くで詩遠の呼ぶ声が聞こえたけど、今の僕はそれに応える気分にはなれなかった。