第35話:届け物
「それじゃあ補習受けてくるね、戻ってくるのは夕方になるから」
「は〜い、いってらっしゃい」
朝、私は追試のために学校へ向かう誠一を誠一の部屋から見送った。
今日の追試をクリアすれば誠一も夏休みを謳歌できるので、私もできる限りの協力をした。
やることはやったから大丈夫だとは思うけど……、期末の前にも同じこと思ってたから油断はできない。
はぁ……私の教え方が悪かったのかなあ。
私はベッドの上にある枕を手元に引き寄せて抱きかかえた。
ちょっと落ち込んだときこうして何かを抱きしめていると落ち着く。
いつもは誠一の役なんだけど今はここにいないから代役ということで。
……枕から誠一の匂いがする。
……あ〜、落ち着く。
「……あれ?」
部屋の中に視線を漂わせていると、机の上においてある包みが目についた。
あれって、お弁当?
弁当を包んでいるハンカチは誠一用のものということは……忘れ物かな?
今日は休日だから購買も開いてないだろうし、誠一困るよね。
よし、届けに行こう!
私はすっくと立ち上がり、お弁当を掴んだ。
学校への道を歩きながら、私はこれからのことについて考えていた。
誠一、お弁当持っていったらびっくりするかなあ。
きっとお弁当忘れたことにも気が付いてないんだろうし。
届けた後どうしようかなぁ。
図書館で本でも読んで追試が終わるまで待ってようかな、今日は特に用事ないし。
そうしたら……
『詩遠……待っててくれたの?』
『うん……』
『だいぶ時間かかるから先に帰ってて良かったのに』
『いいの……誠一のこと待つ時間は全然苦じゃないから』
『詩遠……嬉しいよ』
そして誠一が私の手をぎゅっと握ってきて……
『せ、誠一……みんな見てるよ、私たちのこと誤解されちゃうかも……』
『構わないよ、それにどうせなら僕は詩遠に誤解して欲しいかな?』
『え、それって……』
『さあ、帰ろうか、僕の詩遠……』
なーんてなーんてなーんて!
きゃーハズカシー!
私ったら都合良すぎだし!
「それに誠一がそんな気障っぽい台詞言うわけないしね〜」
「呼んだ?」
「わあぁ!」
曲がり角からひょこっと誠一が顔を出した。
「せ、誠一どうしてここに!?」
もう学校についてる時間じゃないの!?
「それが途中で弁当忘れたのに気が付いてさ、ぎりぎり間に合いそうだから走って戻ってたところなんだ。あ、それ僕のお弁当? 届けてくれたんだ! 詩遠ありがとね、それじゃ遅刻しちゃうからこれで!」
「あ……」
急いでいるせいか早口でしゃべった後、私が持っていたお弁当を持って誠一は行ってしまった。
え〜っと……
「…………帰ろ」