第32話:散髪
「誠一、だいぶ髪伸びてない?」
詩遠に指摘されて、僕は自分の前髪を引っ張ってみた。
「んー、確かにけっこう邪魔になってきたかも」
走ったりすると目に当たって痛いんだよね。しばらく目が開けられなくなるし。
目元まで髪を伸ばしている人たちって何であれを我慢できるんだろうね?
「私が髪切ってあげようか?」
「そう? じゃあお願いしようかな」
今までやってもらったことは無いけど、詩遠は器用だし問題ないだろう……たぶん。
早速髪を切る準備を始める僕ら。
新聞紙を床に敷き詰めて、僕はシーツを巻かれて照る照る坊主状態にされる。
「お客様、本日はどんな髪型にいたしましょうか?」
詩遠がふざけてそんな事を聞いてきた。
「丸刈りでお願いします」
ヴィ〜ン
「じゃあバリカンでさくっとやっちゃおうか♪」
「すいませんごめんなさい嘘ですだから止めてください」
自分で言っておいてなんだけど丸刈りは嫌だ。
「やだなあ、冗談だよ冗談」
今の詩遠はマジだった、僕には断言できる……。
少なくとも僕の髪が詩遠に握られている間はふざけないようにしよう。
「で、どうする?」
「それじゃあ詩遠に任せるよ、僕が指示するよりはまともになるだろうし」
「了解、じっとしててね」
ちょきちょきと手際よく僕の髪を切っていく詩遠。
「なんか髪切るの慣れてない?」
「そう? 髪切るのって今日が初めてなんだけど」
……何か今、聞き逃せないことを聞いたような気がする。
僕は実験台ですか?
どうしよう、急に不安になってきた。
でも今さら不安になったって既に髪を切り始めてるんだから僕は動けないわけで。
……詩遠の器用さを信じることにしよう、うん。
――――30分後。
「終わったよ〜、さっぱりしたでしょ」
鏡で確認すると、僕の髪はけっこうさっぱりしつつきちんと整えられていた。
「よかった……まともだ、ほんとに良かった……」
「?」
詩遠が器用な子でよかったと思った日でした、まる。
ちょっと短めでした。