第31話:誠一思考
最近、詩遠のスキンシップが増えたような気がする。
座っているとよく後ろから首に手を回してくるし、隣に来て手を繋ごうとするし、頭を撫でれと言わんばかりに頭を寄せてくる。
詩遠がスキンシップを求めるのは嬉しいときや怒ったときや悲しいとき、つまりプラスかマイナスかは別として感情が高ぶったときが多い。
詩遠はそんなに嬉しくなったり起こったり悲しくなったりしているんだろうか?
家でも一緒、学校でも一緒だからほぼ一日詩遠と一緒にいるわけだけど、そんなに頻繁に心が揺れるイベントが起こっているわけではないと思う。
ということは詩遠は日常のほんの些細なことに幸せになったり心を痛めたりしているんだろうか?
うーん、どっちかというと詩遠もけっこう大雑把な方だと思っていたんだけどなあ。
僕ほど大雑把だと逆に大変だと思うけど。
でもこの性格を変える気は無いし、変えようとも思わない。
まあ僕のことは置いておいて。
そういえば詩遠はけっこう繊細なところがあるかもしれない。
実はけっこう泣き虫だし。
でも詩遠は他の人がいる前では泣いたりしない。
僕と二人っきりのときとかにぼろぼろ泣くことがほとんどだ。
……もしかして、僕が泣かせてる?
この前だって正面から抱きしめたら泣き出しちゃったし、知らず知らずのうちに嫌なことをしていたのか?
うわ、嫌がってることを気付かずにやってしまうなんて、僕は詩遠になんと言ってお詫びすればいいのやら。
やはりここは菓子折りのひとつでも買ってくるべきか。
詩遠の好きなアイスクリームの詰め合わせとかいいかもしれない。
嗚呼……、アイスクリームいいなあ。
僕も食べたいといえば詩遠は一緒に食べようって言ってくれると思うけど、それじゃお詫びで渡した意味が薄れてしまうような気がするし……。
そうだ、僕のおごりで詩遠と一緒にアイスを食べに行けばいいんじゃないか。
そうすれば詩遠にアイスクリームを食べさせつつ追加で自分の分を買って食べることができるじゃないか。
おお、素晴らしい案だ。
もうこれっきゃないでしょ!
「……いち、誠一、起きて」
「ふぁ……?」
目を覚ますと詩遠が僕の肩をゆすっていた。
「誠一ったら日本史の授業ほとんど寝てたでしょ。もう放課後だよ」
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「ちょっと考え事してて……。そうだ詩遠、帰りに寄り道してアイスでも食べていかない? おごるよ?」
「えっ……、いいの?」
「うん、なんだかアイスが無性に食べたくなっちゃって」
「そうなんだ……放課後デート、放課後デートよね、えへへ……」
「どうかした?」
「ううん、なんでもない! さ、早く行こう!」
んー、最初は別のことを考えていたような気がするんだけど……、詩遠が嬉しそうだしなんでもいいか。