第29話:変わろう、ちょっとだけ
(※)詩遠視点です
自分の部屋に帰って冷静になってくると、すごく恥ずかしくなってきました。
っにゃ〜〜〜〜〜っ! ハズカシ〜〜〜〜〜〜っ!
私ったら誠一に抱きついてわんわん子供みたいに泣いちゃって、思い出すだけで顔から火が出そう!
そりゃ、抱きついてきたのは誠一からだし、不安になっていたところに優しい言葉をかけてくれたからついうるっときちゃったのは認めますけど!
だからって泣いたことが無くなる訳じゃないし!
泣き止め! 少し前の私!
恥ずかしくって明日まともに誠一の顔見れないって!
どうしようどうしようどうしよう!
しばらくベッドの上でじたばたしていたらそのうち疲れてきた。
ヒートアップしていた思考も沈静化してゆく。
……うん、少し落ち着こう。
明日は普通に、何事も無かったかのようにしていれば誠一も蒸し返したりしない。
放課後には何食わぬ顔をして誠一の部屋にいけるようになっているはず。
いつもどおりにしていれば問題ない。
大丈夫、明日もいつもどおり。
そこまで考えて私はぴたりと止まった。
――――いつもどおり?
本当にそれでいいの?
私は、誠一との関係を変えたいんじゃなかったの?
関係を変えたいんだったら、まずは自分から変わらなくっちゃいけないんじゃないの?
変えたいって言っても、結局は今の関係に甘えている私がいる。
そこから一歩も動けない私がいる。
それじゃいけない。
一歩ずつでもいいから、進まなきゃ。
「おはよ、詩遠」
「おはよう、誠一」
朝、二人で並んで歩いて学校へ向かう。
並んで歩くとき手が当たらないくらいの距離、それが今の私たちの距離。
私はその距離をちょっとだけつめて、手の甲を触れ合わせた。
触れたところから、誠一の温度が伝わってくる。
昨日と同じ、暖かい温度。
「……詩遠?」
「昨日の誠一の言葉、嫌いになったりしないって言われてすっごく嬉しかった」
「あ〜……、けっこう恥ずかしいこと言ってるね僕」
空いている手で頬を掻く誠一、ちょっと照れてるみたい。
「ねぇ、誠一」
ちょっとだけ、正直になってみよう。
「私も、絶対に誠一のこと嫌いになったりしないよ」
……私、今耳まで真っ赤だ。
「……うん、ありがとう」
誠一のありがとうは感謝と親愛と照れが混じっていた。
ちょっとだけ近づいた距離。
ちょっとだけ変わった私。
ちょっとだけ届いた言葉。
そのちょっとを積み重ねて、ちょっとずつ私たちも変わっていければいいと思う。
ゆっくり、のんびりしているのはいかにも私たちらしいと思うから――――。
抱きしめあえたり、ありがとうって言い合える人がいるのはとても素敵なことだと思います。
恋人よりも恋人らしいけど恋人ではない二人はちょっとずつ変わってゆこうとします。
そんな二人を、これからも暖かく見守ってくれると幸せです。
感想など、お待ちしています。