第28話:大丈夫だよ
「ん…………」
僕がゆっくりと目を開けると、詩遠が心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
「詩遠……」
「誠一、大丈夫? どこか痛いところは無い?」
「ん〜……なぜか頭に思いっきり衝撃を与えられたような痛みがあるんだけど……なんでだろう?」
思いっきり殴られたらこんな痛みが残るかな? っていうような痛みがずきずきと僕の頭を襲っていた。
はて、僕はどうして自分の部屋の床で倒れていたんだろう?
意識が無くなる前の記憶がはっきりしない。
詩遠から借りたマンガを読んでいて……そう、『誠一へ』と書かれた手紙を見つけて中を読もうとしたんだ。
それから……どうなったっけ? そこで記憶が途切れているみたいだ。
あの手紙には意識を失わせる暗示効果でもあったのかな。
「な、何でだろうね?」
詩遠はそう言っている……でも。
「詩遠……目が泳いでる」
「嘘!」
「うそ」
「…………」
「…………」
「う〜っ! 誠一のうそつきっ」
詩遠の目は泳いでなどいなかった。
ただ不自然なくらいに僕の目を見ようとしていた。
まるで、目が泳ごうとしているのを必死で我慢しているみたいだった。
「うそつきはどっちなのさ。詩遠でしょ、僕の頭が痛い原因」
「うっ……」
まったく、こういう嘘は苦手なんだから最初っから正直に言えばいいのに。
うまく騙せたとしても、嘘をついた罪悪感がふつふつと沸いてきてすぐに謝りに来ちゃうのにさ。
僕が嘘をついたときも、詩遠が嘘をついたときも最後には全部ばらしちゃうんだよね。
「もしかしてマンガに挟まっていた手紙のせい?」
「……」
詩遠は何も言わない、でも肯定するようにこくりと頷いた。
きっと今詩遠は僕に嫌われちゃうかもとか考えちゃってるんだろうなあ。
――――まったく、しょうがないなあ。
「詩遠」
「えっ……」
僕は正面から詩遠を抱きしめた。
詩遠は驚いたのか抵抗らしい抵抗もしない。
「詩遠……嘘はつかないで。
あの手紙が何だったのか、詩遠が言いたくないなら聞かない。
詩遠が僕を殴ったのもこの際かまわない。
でもね、詩遠が僕に嘘をついたら僕は詩遠を何から許せばいいのか分からなくなっちゃうから。
詩遠が謝れなくなっちゃうから。
詩遠が僕を殴ったのをずっと気に病んでいるのを僕は見ているしかなくなるから。
だから、そんなお互いに悲しくなるような真似だけは止めて。
僕は、詩遠のこと嫌いになったりしないから、ね?」
僕は詩遠の背中をぽんぽんと優しくたたく。
大丈夫だよって、言葉以外でも伝えたいから。
きっとこれで伝わるって信じているから。
「……う、せっいちっひくっ、ご、ごめんねっ、ぐす、ごめんなさいっ、蹴ったりしてごめんね、嘘ついて、ごめんねっ」
僕にしがみついて泣きながら謝り続ける詩遠の背を僕はずっと撫でていた。
甘い話が止まりません……(汗)
もうちょっとほのぼのとした話を目指していたのにいつの間にか激甘になっていました。
でも、いいですよね。
感想など待ってます。