第3話:勉強会
「つまり、ここの連立方程式を使ってxを消せば……ほら、y=2が成り立つの。分かった?」
「さっぱり分かりません」
「威張るなっ!」
夜、僕の部屋に頭をたたく小気味いい音が響く。
スイカって中がスカスカだと変な音がするらしいけど、きっと中身が半分くらい食べられてたらこんな音がするんじゃなかろうか?
僕は痛む頭をさすりながら叩いた相手である詩遠を見る。じー。
「な、なに? そんな目で見たってだめよ、誠一に赤点取らせるわけにはいかないんだから!」
「そうだよなあ……赤点はまずいよねえ……」
赤点取ると小遣い半分カット、それが我が両親からのお達しだった。
今でもすずめの涙なのにこれ以上下げられたら目も当てられないけど、でもなあ……正直さっぱりなんですよ。
もともと高校のレベルが僕じゃ無理って言われているようなところだったから授業も早い早い、あっという間に置いてけぼりを食らってしまったという寸法なのだ。
そもそもなんでレベルの高い高校に行く羽目になったかというと、目の前にいらっしゃるこのお方のためだ。
いや、このお方のせいといったほうがしっくり来るだろうか?
中学でも下の方だった僕はそれなりの高校に行ければいいやと気楽に考えていた。
それをこのお姫様は『誠一と一緒の高校にしか行きません』と担任や親にのたまったものだから、少しでもいい高校に詩遠を入れるために必死になって僕に勉強させた。
詩遠のかいがいしい努力もあり(断じて僕の努力ではない)見事今の高校に合格、今に至るというわけだ。
ちなみに詩遠だけだったら県有数の進学校に推薦でいけたのに詩遠は見向きもしなかった。
その理由を僕はいまだ聞けていない、まあ詩遠には詩遠の考えがあるんだろう、生まれてこの方15年、詩遠の行動理由なんて読める方が珍しいのだ。
「……だから……ここで式を展開して……こっちに代入すると……ちょっと、聞いてるの?」
「は、全く聞いてなかった」
「自慢げに言うな!」
本日二度目のいい音がした、年々破壊力が上がっていくんですけど。僕の頭はテーブルにめり込む勢いです。
「まったく……いい? もう一度説明するから良く聞いてね」
「はい先生、お願いします」
「うむ、よろしい」
うんうんと頷く詩遠、どうやら女教師がつぼらしい。単に人に者を教えるのが好きなだけかもしれないけど。でも詩遠教師になったら人気出るだろうなあ……なぜか僕の想像では保健室の主になってるけど。
詩遠は面倒見がいい、落ちこぼれの幼なじみに自分の勉強時間を大幅にカットしてまで手を貸してくれるくらい。
これで悪い点取ったら詩遠怒るかな? いや、怒らないな。『しかたないなあ』って苦笑いして、自分の部屋に戻ってから教え方が悪かったからって思い込んで落ち込むに違いない。
そういうやつだ詩遠っていうお隣さんは。
落ち込ませるのはまずい、何がまずいのか分からないけどとにかくまずい。まずいったらまずい。まずいのは何とかしなければならないでしょう。
「……仕方ない、頑張りますかね」
「ん、何か言った?」
「いや、何も?」
僕はお気に入りのシャープペンシルを握りなおした。