第26話:猫飼いますか?
詩遠(猫耳&メイド服装備)は部屋の隅で体育座りしていた。
頭は伏せられていて表情は分からないけど、どうやら自分の行動にだいぶ凹んでいるらしい。
心なしか頭の猫耳も垂れ下がっているように見える。
ネコミミメイドになる前に気付こうよ……って言っちゃいけないだろうなぁ。
「あ〜、詩遠? そんなに落ち込むこと無いと思うよ?」
しーん、反応なし。
「ほら、若いときの無茶は買ってでもしろって言うじゃない? 時間が経てばいい思い出になるって」
しーん、やっぱり反応なし。
くじけるな、頑張れ僕、このままだと詩遠は一週間は落ち込みっぱなしだぞ!
「それに、詩遠結構似合ってるじゃない、とってもかわいいと思うよ」
ぴこん、と猫耳が反応した……様な気がした。
カチューシャだから本当に動くわけ無いはずなんだけど。
詩遠は少しだけ顔を上げて、上目遣いで僕を見た。
「ほんと……? かわいいって心から思った?」
「うん、思わず飼いたくなるくらいかわいい猫さんだと思う」
「あう……」
ちょっと恥ずかしいこと言った様な気がするけど、これくらいで詩遠が元気になるなら安いもんだよね。
体育座りを解いて、そろそろと僕に近づいてくる詩遠。
しぐさが本物の猫っぽい。
僕は近づいてきたその頭をそっと撫でてあげる。
詩遠撫でられるの好きだもんね。
「にゃ〜……」
うっとりと目を細める詩遠、さっきまでとうって変わってとても幸せそうだ。
車座になった僕のひざに頭を乗っけて寝転がり、すっかりくつろぎモードに突入している。
「誠一になら……飼われてもいいかな」
ぼそりと詩遠が呟く。
僕が詩遠を飼う、かぁ。毎日詩遠のご飯の準備をして、一緒に遊んで、たまに詩遠に甘えられてこうして撫でてあげる。
……今とあんまり変わらないような?
いや、違うか。飼う飼われるの関係じゃ勉強を見てもらったり、叱られたり、説教されたりしないよね。
「僕は、詩遠を飼うよりは対等の関係でいたいかな」
ありのままの詩遠の方が、僕は好きだな、うん。
「そっかぁ……じゃーそっちでいい……や……」
「…………詩遠?」
「……くぅ」
寝ちゃったか、あーあー幸せそうな顔しちゃってもう。
僕はベッドの上のタオルケットを取って、そっと詩遠の体にかけてあげた。