第12話:課題
「じい〜……」
「……ん? 詩遠、どうかしたの?」
「う、ううん。別に何も」
「そう? ならいいけど」
「…………じい〜……」
詩遠、何もないなら睨まないで欲しいなあとは思うけど口には出さない。
こういうときの詩遠は気が済むまで好きにさせておいた方がいいと経験で知っている。
というか止めさせてもなんだかんだで丸め込まれて結局詩遠の行動は止められないので言うだけ無駄なのだ。
しかし、僕を観察してどうするんだろう?
絵のモデルとか?美術の課題ってあったっけ?
んー……、ああ、確かにあったな、確か身近なものを描いてこい、だっけ。
なるほど、それで詩遠は僕を描こうと観察してるわけか。
そういえば提出期限週末までだっけ。
うわー、まだ手をつけてなかった。
思い出してよかったヨカッタ。
僕もさっさとやらないとね。
僕は棚に放り込んであったスケッチブックを取り出して、白紙のページを開いた。
さて、何を描こう……というか、目の前に丁度いいのがいるじゃん。
「誠一、何してるの?」
「ああ、詩遠を描こうと思って」
「ええっ!!?」
いや、そこは驚くところじゃないでしょ、詩遠だって僕を描こうとしてるんだから。
詩遠はぶつぶつと「ヌード……芸術のため……我慢できなく……襲われたり」と、何かつぶやいてるみたいだけど相変わらず声が小さくてよく聞こえないや。
この状態になると長いんだよなあ詩遠。
まあいいや、今のうちに描いちゃえ。
「……はっ!」
「あ、お帰り〜詩遠」
僕が描き終えてしばらくたった頃、ようやく詩遠が戻ってきた。
最近よくフリーズするけど大丈夫かな?
「ほら、もう出来てるよ、詩遠の絵」
「え、見せて見せて。……相変わらず誠一ってこういうのうまいよね」
「そう? 素人に毛が生えた程度だと思うけど。はぁ〜、これで課題も終わったし、後は明日提出するだけだよ」
「……え? これってもしかして、美術の課題?」
「そうだけど?」
何をいまさら。
「だ、ダメ! 私の絵を提出するなんて、絶対ダメ!」
「えー、でも新しく描くのめんどくさい」
「とにかく、これはダメったらダメ!」
「あ、詩遠!?」
なんと詩遠は僕のスケッチブックを持ったまま逃走し、自分の部屋に持ち帰ってしまった。
「……ええー」
なんで?
次の日、朝一で新しいスケッチブックを買って、適当なものを描いてなんとか提出は間に合わせることが出来た。
詩遠……、せめてスケッチブック本体は置いて行って欲しかったよ……。