第11話:詩遠VSハム?
「あ、あのぉ〜……」
「はい?」
移動教室の帰り、私は誰かに呼び止められた。
振り返るとそこにはちんまりとした可愛らしい女の子がいた。誰だっけ、確か時々見かける隣のクラスの同級生だったはずだ。
私に何の用だろう? ……まさかと思うけど告白とか?
たまに『お姉さまになってください!』とか『罵ってください!』とか言い出す人がいるけど、彼女もその類なのかな?
まじめそうな子なのに……。
「い、いえ、あなたではなく、と、隣りの……あ、行っちゃった……」
隣りの? 私が後ろを見るとちょうど誠一が廊下の向こうに消えていくところだった。
誠一に用事? 可愛い女の子が?
―――はっ! ま、まさか!この子、誠一に一目惚れ!?
誠一を校舎裏に呼び出してもじもじしながら告白して、誠一はうるうるした瞳に逆らえずになし崩しに恋人が成立して……。
この子の猛烈アタックにだんだん私との時間が無くなって、いつの間にか私と誠一の間に大きな壁が……。
ダメ! そんなの許すわけには行かないわ! 断固阻止しないと!
「……で、彼に何の用?」
「え、えっと、それは……な、何だか睨まれてる気がするんですけど」
「気のせいよ」
睨んでなどいない、ちょっと目に力を入れてるだけだもん。
「で、でも圧力が……」
「気のせいよ」
「う、うう……、わ、わかりました」
「わかればいいのよ」
人間素直が一番よね。素直すぎるのもどうかとは思うけど。
しかし、何だか小動物みたいな子よね。
顔とか雰囲気がまるでハムスターみたい。
「あの、ですね。さっきの人に渡して欲しいものがあるんです」
ぴくん、と私は自分の眉が跳ね上がるのを感じた。
渡して欲しいものって、ま、まさかラブレター!? 古典ゆえに王道な手で来るとは……。
「えっとですね、あれ、どこに入れたかな?」
こういう子には先に先制で一発釘を刺しておけばもう関わって来ない、はず。
よーし!
「あ、あったあった。よかったらこの傘を……」
「ちょっと聞いて!」
「は、はい!」
「あの人は、私の……」
「私の?」
「か……か……か……」
あああああ〜! 恥ずかしくって『彼氏』って言えない〜!!
そりゃ私と誠一は恋人同士じゃないから看板に偽りありなんだけど、いずれはそうなる予定なんだから少しぐらい早めに言ってても……。
で、でももし私が誠一のことを彼氏って吹聴してるって噂が立ったら?
もしその噂が誠一の耳に入って問いただされたりしたら?
そんなの恥ずかしすぎて顔合わせられないよぅ!?
で、でもここでガツンと言ってやらないと!
がんばれ私! ファイトだ私! 私はやればできる子だ! えいえいおー!
「あ、あの〜、顔真っ赤ですけど、大丈夫……」
「と、とにかく!」
「ひゃあ!?」
「渡さないから!」
恥ずかしさで死にそうな私は、すぐさまきびすを返して彼女の元から走り去った。
言えた、言えたよー! でもハズカシー!! 顔から火が出て死ぬー!
「な、なんで折りたたみ傘を渡すのを断られるんだろう……」
ハムスター子さん、略してハム子の疑問に答えられる人はここにはいなかった。