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第10話:不機嫌な

……姉さん事件です、僕は一人っ子だが。


あの外面を気にする詩遠にしては珍しく、教室で不機嫌オーラを全開に放出していらっしゃいます。

いったい何があったのか、僕にはとんと見当がつきません。

あ、詩遠と目が合った男子がものすごい勢いで目をそらした。

可哀想に、まるで小動物のように小刻みに震えてらっしゃる。

そんなに怖がらなくても取って喰われるわけじゃないのに……たぶん。


ふと視線を感じて周囲を見ると、周囲のクラスメイトが僕の方を見つめていた。


えっとそんな「お前何とかしろよ」みたいな目で見られても、僕にどうしろと?

え? 「幼なじみなんだろ」? でも前に幼なじみすごくないって結論出たし。

は? 「ごちゃごちゃ言ってないでとっとと行け」?

はいはいわかりましたわかりましたよ、僕が生贄になれば済む話なんですねそうですね、わかってますよ。

だからそんな捨てられた子犬のような瞳で見つめてこないで下さい。

ちなみにこの会話は一切音を使わず目線と表情だけで行っております。

って誰に言ってんだ僕?


頭にドナドナが流れつつ、僕は恐る恐る詩遠の近くに寄って行った。


うわ〜、改めて近くで見るとすごい。何がすごいって詩遠の周りだけ空気が歪んでる様に見えるんだもん。

これどんな超常現象? 写真撮ってテレビ局に投稿したら10万くらい貰えないだろうか?


「し、詩遠さん……なにかあったんでございますですか?」


いかん、腰が引けすぎて変な日本語になってる。


「誠一……」


詩遠が、ん、と自分の前の席をあごで指す。

ああ、はいはい座れってことですねよいしょっと。よいしょって言うと年取った感じがするなあ、まだ15だけどさ。


「実はさ……さっきのことなんだけど、3年の知らない先輩に告白されて……」


「ふんふん、それで?」


「……そこで何か反応は無いの? 告白されてたって言うのに」


あれれ、詩遠オーラが増大してますよ? 息が! 息ができないくらい重い! というか痛い!


「べ、別にいつものことだし……」


「……まあ、そうなんだけどさ」


たぶん相手にとっては一世一代の告白をいつものことで済ませてしまえる詩遠はやっぱもてるんだなあと思う。


ぶすっとした表情のまま詩遠が語る内容は、どうやら告白をばっさり切って捨てた後にその先輩に暴言を吐かれたらしい。


「いっそ手を出してきたら思う存分叩きのめしてやれたのに……」


「おいおい」


中学のころ告白を断った腹いせに大勢で襲い掛かってきた高校生の不良たちを片手で一掃した、という逸話を持つ詩遠に腕力で挑んでもねぇ。

ちなみにその不良たちには姉御と呼ばれて今でも慕われてるらしい。

たまに一緒にコンビニとか行くと、たむろしている不良たちに大声で「姉御! お疲れ様です!」と挨拶されるさまはちょっと面白い。


「まあ、言葉攻めにして死ぬほど凹ませておいたからもう寄って来ないとは思うけど」


……僕は顔も知らない先輩の冥福を星に願った、今昼で星見えないけど。


しかし、詩遠が暴言吐かれたくらいでここまで怒るのも珍しい。

どのくらい珍しいかというと教室でゴキブリを見かけるくらい。

……わかりにくい例えだなあ。

もうちょっとわかりやすい例えはないもんだろうか?

うーんと……まあいいか例えなんて、今はそれどころじゃないし。


「それで、一体どんなこと言われたの?」


「それは……その……」


なんだ?そんなに言いづらいような類のことなんだろうか?

女の子が口にするのもはばかられるような……そ、そんな !そんなこと口にするなんてお父さん許しませんよ!

僕はお隣さんだけどそこは置いといて。


「誠一のこと……悪く言われて……それでちょっとかっとなっちゃって……」


……


…………


あーあーあー、なるほど納得だ。

そういえば詩遠は自分よりも友達を馬鹿にされた方が怒るようなやつだった。

いやいや、僕としたことがうっかり失念していた。

こういうやつなんですよ、お隣の詩遠お嬢さんは。


つまりあれだ、詩遠のこのどす暗いオーラは僕を馬鹿にされたことに怒っているわけで、僕のために怒っていてくれたわけだ。

そう思うとこのイライラっぷりもちょっとぷりちーに見えてくるから不思議。


僕は詩遠の頭の上にぽんと手を置いた。


「な、なによ……?」


「よしよし、詩遠はいい子だね、僕のために怒ってくれてありがとね」


なでなで


「ちょ、子供じゃないんだからそんな事したって……」


なでなで


「う、ううーー……」


なでなで


「……」


なでなで


「…………はふぅ〜」


弛緩した顔になる詩遠と同時に、不機嫌オーラは霧散していった。よし、ミッションコンプリート。


クラスメイトの方を見ると「なにいちゃいちゃしてやがる畜生!」みたいな目で見られた。


……なぜに?


「ん」


頭を僕の手に押し付けてくる詩遠。

ああ、はいはい『もっと撫でろ』ね。まったく、こういうところは犬猫みたいなやつ。

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