第1話:私たちは?
初投稿です、ちょっとでもほんわかしてもらえると幸いです。
「ねえ、私たちって何なのかな?」
唐突に、詩遠がそんなことを言い出した。
『私たちは何なのか』、私たちはいったい何者なのか? どこから来てどこへ行こうとしているのか? むむ、哲学の見出しみたいだ。元々人類が生まれたのがどれくらい前だっけ? あれ? 類人猿って人に含まれるんだっけ? あれれ? 猿人類だったかな? 歴史は苦手なんだけどなぁ。この場合生物だっけ? 哲学だから国語?
「なかなか難しい話だね」
こんな小難しい話は得意じゃない。もっとこう、ストレートというか単純というか分かりやすい話の方が好きだ。『誠一君は好き嫌いが無くて偉いねぇ』と、お隣のおばさんというか詩遠のお母さんに褒められたことはあったけどそんなことはなくて僕だって好き嫌いくらいするんだ。未だ茄子が食べられないし。ごめんねおばさん、期待を裏切ったみたいでなんだか申し訳ない。
「そっか、私たちは難しいんだ」
詩遠は僕の答えから何か解ったみたい。あごに手を添えてふんふんと1人頷いている。こんなテキトーな解答が役にたったんならそれでいっか。
「ねえ、どうしてそんなこと聞くの?」
「ああ、今日学校で友達と話していたんだけどね。その時に誠一の話が出て、『結局あなた達ってどういう関係なの?』って聞かれたんだ。改めて考えると私たちってどういう関係なんだろうなって思って」
ふむふむ、なるほどなっと。……あれ?
「哲学じゃないの?」
「てつがく?」
違ったらしい。どうやら僕の早とちりだったみたいだ。いやいや、しょうがないよ、だってあんな質問の仕方じゃわかんないって。
それより、僕たちの関係か。僕こと渡瀬誠一と朝倉詩遠は昔からの知り合いでその歴史は15年くらい前までさかのぼることになる。生まれたときから詩遠とは色々あったり無かったりしてきた。家だって隣同士だしお互い恋人がいない身としてはきっと異性としては一番仲がいいはずだ。どれくらい仲が良いかっていうと詩遠が僕の部屋に年がら年中入り浸るくらい。今だって詩遠は僕のベッドにちょこんと腰を下ろしている。
そういえばこういう関係のことを漫画かなんかで見た覚えがある。あれはえ〜っとなんていったっけ?
「そう、幼なじみ!」
おお! まさに僕らを表している一言では無かろうか! 友人というには縁が深すぎるけど家族ではない。幼い頃からのおなじみの人、すなわち幼なじみ。完璧だ、パーフェクト。
幼なじみだから互いの部屋を行き来して手も何ら不思議じゃないし一緒に夕飯食べても全然変じゃない。凄いぞ幼なじみ。
「幼なじみかぁ、それだけ?」
何でそこで不満そうにするの詩遠? だって幼なじみだよ幼なじみ! なんと僕らは幼なじみだったんだよ! 幼なじみはえ〜と、あれ? なぜかもう良いところが思いつかないぞ? どうした幼なじみ、お前の力はそんなもんか!? お前にはもっと良いところがあるだろう、う〜んとえ〜とう〜う〜〜。
駄目だ。わからん。思いつかん。なんだ、こんなもんだったのか幼なじみ。あんまし凄くないじゃん。あ〜あ、褒めて損した。なるほど、詩遠が不満に思うわけだ。確かに幼なじみって凄そうに聞こえる割にはあんまし凄くないよな。
「う〜ん、確かにそれじゃあ物足りないよね」
「え!ほ、ホント!?」
詩遠、そんな期待するような目で見ても僕はこれ以上思いつかないよ。学年で下から数えた方が早い成績をなめんなよ。そうポンポン答えが出てくるんなら補習なんかに引っかかったりしないよ!
うう、自分で言っててへこんできた。ええ、そうですよ、どうせ僕は頭が悪いですよ。高校にだって詩遠に勉強見てもらえなかったら受かってなかったよ。あの時はホント助かった。詩遠にはホント感謝してるよ。そういやお礼まだしてなかった気がする。今度何か奢ってあげようかな? だから中間もたのみます。詩遠だけが頼りなんです。
そんなことを考えていたらおもむろに詩遠は立ち上がって僕の後ろに回り込んだ。そして包み込むように首に手を回して僕を抱きしめた。
たまに詩遠はこんな風に僕とスキンシップをとる。大体は嬉しいときとか、逆にイライラしているときとか、後は落ち込んでいるときとかにもよく引っ付いてくる。
今回は嬉しいときの抱きつきみたい。イライラしてるときは痛いくらいギュウギュウ締め付けてくるんだけど嬉しいときは優しくそっと抱きしめられる。詩遠とこうやってくっついているとなんだかほわほわした感じになってくる。なんだろう、安心感? とでもいうのかな。このまま目を閉じてお昼寝したくなるような、そんな気持ち。
「ね、誠一はこうやってしてるのどう? 嫌じゃない?」
「嫌じゃないよ、どっちかって言うと好きかな」
「本当! えへへ…………」
正直に答えてあげると詩遠はますます引っ付いてきた。
やれやれ、詩遠は甘えん坊さんだなぁ。まあいいか、しばらく好きにさせてあげよう。
何か良いことでもあったのかな?
誠一君はボケボケです