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繋ぎたいけど素直になれない、だから強引に手を取って

「お二人で庭園をご覧になられてはいかがですか?」


 野菊が落ち着きを取り戻した頃にそう提案してきたのは村岡さんだった。


「庭園?」


「ええ」


 問い返すと、村岡さんがにっこり笑う。


「花邑邸は何人もの熟練の庭師の手によって毎日手入れを行っております。歩くだけでも楽しんでいただけるかと」


「そうなんですか。じゃあ、ぜひ野菊と一緒に歩きたいかな?」


 言いながら野菊に手を伸ばす。


「はあ? この私が、あんたみたいな下賎な犬と一緒に歩くだなんて――」


「僕が君と歩きたいんだ。それじゃダメかな?」


「……し、仕方ないわね! 犬の散歩も主人の務めだわ。それなりの誠意を示すようなら、別に付き合ってあげなくもないわ」


「誠意って?」


「そっ、それぐらい自分で考えなさいっ」


 言いながら、野菊の左手がなんだかそわそわと動いている。自分では気づいていないのだろうけれど、彼女の目は僕の差し出した手をそっぽを向いているふりをしながらもちらちらと何度も盗み見ている。


 繋ぎたいけど素直になれない、だから強引に手を取って――作品名はそんなところか。


 そんなことを思いながら、僕は。


「じゃあほら。十二単は重いでしょ? だから僕の腕に、野菊のほうからしっかり掴まってほしいな」


「ふみゃっ!?」


 あえて、野菊にそんな言葉をかけてみた。


「なっななにゃにをいきにゃり――っ」


「だってほら、手を繋いでいるだけだと、野菊がバランスを崩した時に上手く支えてあげられないかもしれないじゃないか」


「く、崩さないわよバランスなんて! 私が何年、こういったものを着続けていると思っているの!?」


「でも万が一なんてこともあるだろう? ただでさえ裾の長い着物なんだしさ。歩いている時に足で踏んでしまうこともありそうじゃないか」


 野菊のほうから腕を組んできてみてごらん――あくまでそういう態度を崩さない僕に、野菊の唇がわなわなと震え始める。


 そして。


「べっ、別に、エスコートなどなくとも転ばずに歩けるわよぉ!」


 叫ぶようにしてそう言った。


「だいたい女性のほうから男性に触れるなんてふしだらだわっ。そんなことを強要するなんて、あなたやっぱり変態――」


「僕のほうから触れるのはいいんだ?」


「それは破廉恥よ」


 意味同じじゃないか。


「とにかく、私のほうから掴まれですって? そんなものは必要ないわ! むしろあんたのほうが私の後からついてきなさいな。特別にこの私自ら庭園を案内――あっ」


 言いながら和室の外へと踏み出した野菊の体が、ぐらりと揺れる。


 そのまま倒れそうになった彼女の肩を、僕はとっさに両手で支えた。


「大丈夫?」


「~~~~~~~っ」


 胸元に倒れこんでくる形になった野菊にそう問いかけると、彼女は顔を真っ赤にして言葉もない。


 今度は唇だけでなく、ワナワナと全身を震わせて、


「は、破廉恥、破廉恥、破廉恥っ」


 と、恥ずかしそうに俯いて、胸元に何度も何度も『破廉恥』という言葉を口にしながら頭突きをかましてくる。


 心地よい衝撃を受け止めながら、「それじゃあ」と彼女の手を取った。


「行こうか、野菊」


「ぁ――」


「どうしたの? 庭園を案内してくれるんじゃなかったの?」


 言葉でそっと促すと、野菊は小さく首を縦に振る。頬の赤みは一向に消えないままであったが、僕と手を繋いで歩くのはどうやら受け入れてくれたようだ。


 そうして、手を繋いだまま僕らは外に出る。

すいません、短いですが今日はこれぐらいで

あと、少々更新頻度が落ちるかもしれないのでご了承ください

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