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閑話:とある使用人の独白

今日は二回更新だといったな? アレは嘘だ!

 わたくしは村岡咲穂(さきほ)。お嬢様の使用人である。


 お嬢様というのは、誰もが知っているあの花邑財閥の一人娘、花邑(はなむら)野菊様のことだ。


 お嬢様がまだ幼く、立って歩くことすらままならない頃から彼女の世話役として仕え、今では侍従長してお嬢様のことをお支えしている。


 お嬢様は気高く、華があり、誰よりも聡明でありながら、努力家という一面をお持ちになられている。四十年という決して短くない人生でわたくしが見てきた中でも、お嬢様ほど容姿でも中身でも秀でた方は見たことがない。


 十を超えた頃からは旦那様よりいくつかの子会社の経営も任せられ、そちらでも確実な実績をお嬢様は上げている。株の運用センス、経営の才覚、需要と供給を見抜く慧眼のいずれをも備えており、お嬢様を当初侮っていた者も今では一目置いているという。


 まあ、当然ですね。


 お嬢様の実力を見て、それでもなお子どもだからと下に見る人間は無能です。


 花邑グループでそんな無能が生き残っていけるわけもない。事実、今までに旦那様やお嬢様に更迭された人間は、例外なくお嬢様を『子ども扱い』しておりました。


 それだけじゃない。ほとんどの人間は、お嬢様のことを『花邑財閥の一人娘』としか見ておりません。旦那様という後ろ盾、お嬢様所有の株や個人資産、お嬢様個人について回る数字的な記号の数々――そんなものばかりを、化け狸共はお嬢様の後ろに見るのです。


 お嬢様相手に見合い話などいくらでもあります。十を超え百を超え、千にも上る頃にはお嬢様の心は枯れ果てておりました。当然です。誰もお嬢様には興味ない。興味があるのはお嬢様と一緒についてくるものばかり。世の男はそんなものかと、お嬢様が思うのもきっと無理はないのでしょう。


 そう。誰もが知りません。お嬢様自身の価値、お嬢様自身の表情、お嬢様自身のお心を。


 お嬢様は最高です。何もかもが最高です。ああ、まだ幼かったお嬢様の寝顔。こっそり隠れて何百枚撮ったことか。撮影がバレたこともありましたが、その時もお嬢様は「村岡さんほど優秀な人はいないから」とお許しになってくださいました。なんと慈悲深いお嬢様! その時のネガは捨てられてしまいましたが、この教訓を糧に今では撮影したものはすぐにクラウドに保存するようにしています。ああ、なんと麗しきかなお嬢様!


 ……コホン。少々興奮してしまいました。


 とにかく、お嬢様の素顔になど誰も興味を持ちませんでした。


 だからわたくしは願わずにはいられませんでした。どうか誰か、お嬢様のお言葉に耳を傾けてはくれまいか、と。


 そんな時に現れたのが――『ある日突然運命の相手が見つかるプロジェクト』で選ばれた、重松太槻様でございました。


 今でも覚えております。花邑邸を初めて訪れた時に重松様に、『なんでこんな人が選ばれたんだろう?』という思いを抱いたことを。


 なんなら怒りすら覚えました。なんで! なんでわたくしのお嬢様にこんなごくごく平凡で冴えない一般的なサラリーマンの、それも十も年上でちょっと髪がボサボサでスーツだってヨレヨレで微妙に無精ひげが生えていてダッサい黒縁眼鏡をかけてる男が選ばれたの!? お前みたいな小汚えリーマンはお呼びじゃねえんだよ! そのスーツはどこのブランドだああん!? まさかしま○らだとか言わねえよなあオイふざけてくれてんじゃねえぞマジでお嬢様の隣にならぶ――失礼いささか興奮いたしました。


 ですが、その日の夜に私は重松様への認識を改めました。


『私が何を言っても怒らないでいてくれたの』


『優しく頭を撫でてくれたの』


『ぎゅ、って抱き締めてくれたの』


『ちゃんと恋人同士になろうって……真剣に言ってくれたの』


『――あんな人、今まで見たことないわ』


 それ男が女騙す時の典型的な手口ですよ、とは思いました。でもお嬢様はアレで案外人を見る目は確かです。使用人の不正や横領などが過去にあったこともありましたが、それをお嬢様はすべて見抜いて罰を下してきたお方です。


 そんなお嬢様があんなに信頼しきった表情をなされるなんて――ぅぅぅぉぉぉぉぉおおおおおお重松太槻ぃぃぃぃぃぃ許すまじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


 しかし許せないのは確かですが、ついに念願の人物が現れてくれたのではないか、とも同時に思いました。お嬢様の声、お嬢様の心、お嬢様の想いに耳を傾けてくれる人なのではないか、と。


 事実、太槻様は地位にも富にも権力にも、微塵の興味のない方のようでございました。また、勤勉な方のようで、仕事を途中で放り出さない責任感もお持ちのようでした。


 少々、男女の交際に対して夢物語のような理想を抱いているようでもありますが……それも下卑た欲望を胸のうちに秘めていない証と言えなくもありません。


 そのような重松様なら、もしかすると、とわたくしは思ってしまいます。


 もしかすると彼が、お嬢様のことを運命の底から救って下さるのではないか――などということを。

村岡さんもそれなりに設定があっていつか語りたいですけど、それはいつになることやら


また、たくさんの感想ありがとうございます。ブクマやポイント評価、感想などいただけると本当に嬉しいです。モチベ上がるし筆も進むしたくさんの人に読んでいただけると感じるのが一番やる気に繋がります。いつも本当にありがとうございます


これからも、頑張っていきます

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