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相性1000%の彼女

相性1000%の彼女~マッチングAIシステムを利用したら財閥令嬢の美少女が俺の嫁として選ばれた~





重松太槻(しげまつたつき)。あんたが私と相性1000%? そんなの絶対信じたりしないから」


 のっけから彼女は辛辣だった。


 彼女とは、名前を聞けば誰もが跪く花邑(はなむら)財閥の一人娘、花邑野菊だ。十七歳の女子高生。名門校と名高い寿(ことぶき)女学院に通っている。


 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、という言葉を体現するような、容姿も立ち居振る舞いも麗しいご令嬢だ。


 そんな彼女が、きつい目つきで僕を見上げる。


「だいたい、機械如きが人間の相性を判断できるなどとは思えないわ。胡散臭いにもほどがある話よ」


「うんうん、そうだね」


「しかもそれで選ばれた相手が十も年上の冴えない会社員? 私を誰だと思っているの。花邑財閥の一人娘、花邑野菊よ。なんでこんな犬畜生にも劣る一般人が選ばれなければならないのかしら」


「うんうん、分かるよ分かる」


「そもそもあんたの年収はいったいいくらよ。私が株取引で蓄えた個人資産は四十六億よ。最低でもそれぐらいは上回ってくれるのよね?」


「年収は三百二十万だよ。額面で」


「三百二十万……っ、い、一日の食事代にもならないじゃない! そんな貧乏人とマッチング? ありえないわ! 人権侵害よ! この私に畜生の餌でも食えというの!?」


 僕の年収を聞いた野菊が血相を変えて喚きたてる。


 一応、成人男性の平均年収だと思うんだけどなあ。え、平均的だよね? 二十半ばならこんなもんだよね?


 なんてことを思いながら、僕は野菊に話しかけた。


「ところで、ねぇ、野菊」


「馴れ馴れしく私の名前を呼ばないでちょうだい、この下賎の犬畜生が」


「なんで野菊はさっきから僕の服の裾を握って離さないの?」


「たまたま握りやすいところにあるものを握って何が悪いのかしら? 文句があるのこのワン公」


「なんで野菊はさっきからたまに僕の腰に顔を押し付けてにおいを嗅いでいるの?」


「か、加齢臭や獣のにおいがキツすぎないか確認してあげているだけよっ」


「なんで野菊はさっきからスマホで『デートスポット特集~大人の恋人編~』の記事を食い入るように眺めてるの?」


「さっきからいちいちうるさいわねこの駄犬! これ以上余計な口を開くようなら私の部屋に鎖で繋ぐわよ!」


「そんなに野菊は僕のことを繋ぎとめておきたいんだね。嬉しいなあ」


「あ、いや、それは、ちがっ、だ、だって……」


 僕の言葉に、野菊の顔がボンッと音を立てて赤くなる。


「野菊野菊。もしかして、照れてる?」


「て、照れてにゃあい! これは、そう、怒ってりゅのよ――――――――――!」


「照れてる野菊もかわいいよ?」


「だーかーらー!」


「本当にかわいいよ?」


 そう声をかけながら野菊の頭を撫でてあげると、喚いていた彼女もすぐにおとなしくなる。そして、僕のお腹の辺りにぐりぐり頭をこすり付けてきた。凹みそう。


 これが、僕と野菊の最初の出会い。


 こうして僕らが出会うまでを説明するには、少しばかり時を巻き戻す必要があるだろう。


 * * *


 その日の職場の飲み会で中心となった話題は、『過去の恋愛話』だった。


 上半期も終わる頃合の十月、最終週。『今年度も半分終わるから同期で集まって適当に飲もうぜ』という趣旨で召集された僕は、みんなの話を感心しながら聞いていた。


「学校の先輩が初めての彼氏で」「同じ塾に通ってたのがきっかけで」「部活のマネージャーから部室で」「後輩の彼女からある日突然告白されて」……それこそ話のバリエーションは豊富だった。世の中にはこれほど色んな恋愛の形があるのだなと、彼女いない歴=年齢の僕は感動すら覚えながら聞いていた。


「まっつぁんはどんな感じなんだよ」


 と訊ねてきたのは同じ部署の岩下である。今しがた熟女好きを公言し、「中学の頃に同級生の母親と付き合っていた」と衝撃的なカミングアウトをかました気のいい友人である。


 聞かれた僕は、「うーん」と腕を組むしかなかった。


「それがさ。僕、彼女いたことないんだよね」


「え、マジかよ。お前もう二十七だろ」


「うん。だから二十七年間、彼女いたことないんだよね」


 そう白状すると、一瞬で飲み会の場がしん、と静まり返ってしまった。全員から向けられるのは、「え、マジかよ……そんなやつ存在すんの?」とでも言いたげな視線だ。


 少し居心地の悪い気持ちになる。別に悪いことをしたわけでもないのに、なんだか非難されているような心持になってしまった。


 恐る恐ると言った様子で岩下が問いかけてくる。


「それ……ほんとのほんと?」


「うん、ほんと」


「嘘じゃないんだよな?」


「なんで嘘つく必要があるんだよ」


「うーわ……マジかー」


 岩下が思わずといった様子で天井を仰ぐ。飲み会に参加した他の面々も、同じような反応だった。


「二十七で童貞か……」


「さすがにやべえよな」


「いや、まだ素人童貞の可能性は残ってるから」


「だとしても彼女いない歴=年齢って」


「それも戦前ではなく現代の人間が、なあ」


「生きた化石を見てる気分」


 一気に賑わいを失った場で、みんながボソボソと呟いていく。


 そのせいで、なんだか妙にいたたまれない気持ちになってしまった。


 しまいには、


「もしかして重松って、彼女がほしくない人なのか? 性欲がなかったり、むしろ彼氏が実はほしかったり、そういう人種?」


 なんて疑いまでかけられる始末。


 ……なんでや。僕だって彼女ぐらいほしいわい。女性と、なんというか……アレな行為をすることにだって興味もあるわい。


 しかしなあ。好きになった女性がいても彼氏がいたり、振られたり、振られるより先に縁が切れたり、とにかくことごとくタイミングとか運とかそういうのが悪くて恋愛関係にまで発展した相手がいないのだ。


 曰く、『重松君はいい人だとは思うんだけど』


 曰く、『実はサッカー部の大森君と付き合ってるの』


 曰く、『勘違いさせてごめんね、結婚してるんだ、私』


 曰く、『うーん、なんか、重松君はそういう感じではないなあ』


 ……今なら思うけど『そういう感じ』ってなんだよ。なんでそんな具体性に欠けてるんだよ。ちょっと曖昧すぎやしませんか? どういう感じならいいんだよ……誰か教えてくれよ……。


 とにかくそんな感じで、僕は恋愛から縁のない人生を送ってきた。


 もうそれでもいいや、なんて諦めも、いい加減ついてきたところだった。


 だが、この日ばかりは、『え、マジ、ありえなくね?』という白い目の嵐に自分の半生を思わず省みてしまう。


 そして飲み会の帰り道、一人で歩いている最中に唐突にすごく思ったのだった。


 やべえ、彼女がほしい――と。


 * * *


 翌日から僕はすぐに行動を開始した。


 まず始めにやったのは、『彼女 作り方 社会人』というワードでグーグル先生に質問することだ。


 そして見つけたのが、『ある日突然運命の相手が見つかるプロジェクト』というサイトである。


 とある遺伝子科学研究チームによるプロジェクトらしく、ざっくりと説明すると遺伝子情報を恋愛マッチング電脳頭脳にかけて、遺伝子的にもっとも相性のいい相手同士でマッチングさせるというものらしい。


 今のところ6,892カップルを成立させた実績を持ち、マッチング率は脅威の99.9%。残りの0.1%は最近登録したばかりで相手を検索中の人ぐらいらしい。


「いかにも胡散臭いな」


 口では僕もそうは言ったが、これが仮に事実とするなら僕でも恋人が作れるかもしれない。


 詐欺やマルチの可能性も疑ってみたが、案内のページにはプロジェクトチームの電話番号や住所もしっかりと記載されている。グーグルマップで調べてみれば正規の地名だったので、疑い半分……いや、疑い九割ぐらいで僕の遺伝子情報も登録してみることにした。


 * * *


 遺伝子情報の登録申請をした翌日には、綿棒みたいな道具が自宅に届けられた。これで頬の内側を強めにこすって培養液の入ったカプセルに入れ、同封されている返送用封筒に入れて指定の住所に届けるだけで登録は完了、らしい。


 そして、遺伝子情報を登録してから一週間。


『マッチング相手が見つかりました。相性は1000%。理想以上の数値です』


 なんて紙が封入された通知が、僕の元まで送られてきたのであった。

気が向いたらゆるゆる続けようと思います

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