再会
「リオ」
呼ばれて顔を上げれば、主人である王太子マリウスがいた。リオは柔らかな微笑みを浮かべた。
リオは野盗に襲われて虫の息だった時に、マリウスに助けられた。正確に言えば、野盗を討伐にしに来たマリウスの隊によって助け出された。
放っておいてもよかったと思うのだが、何となくという理由でマリウスはリオを助けた。リオの怪我はとてもひどく、一人で歩けるようになるために1年以上の時間がかかった。
その間、シュゼットとゾーイが心配であったが、二人には多少の蓄えがあった。それで生き延びていてほしいと願い、動けるようになるとすぐさま王都へと戻った。ところが二人はすでにそこにはいなかった。
色々な人に聞いて回っても、行方がつかめない。
二人を見失って茫然とするリオを助けたのは、お忍びで一緒に来ていたマリウスだ。マリウスは王太子という地位にいるが、出歩くのが好きな人だった。
捜索を継続してもいいから、自分に仕えろと、言ってきたのもこの時だ。リオは命を救われたからという理由だけで、マリウスに仕えることになる。
助けられてから16年。
リオはマリウスに降りかかる様々なものを振り払ってきた。
「怖い顔をしている。どうした」
「私を使者の一人に入れてください」
「……お前、あのポーシャの面倒を見たいのか?」
「いいえ。あの国に……少し用事がありまして」
「そうか。いいだろう」
マリウスは軽く頷いた。リオは理由も聞かずに了承されて、不審そうに主を見る。
「何か条件でも?」
「お前の希望を叶えたいと、純粋に受け取ってくれないのかい?」
「無理ですね。殿下は見返りなくして動かないでしょう」
淡々と言えば、マリウスが声をたてて笑う。
「折角そう言ってもらったんだ。ポーシャに致命的な行動をとらせてほしい」
「何でもよろしいのですか?」
「ああ。向こうもポーシャみたいな害虫はいらんだろうよ」
「では一筆、書いてください。私はそれを持って交渉します」
マリウスは返事はしなかったが、にやりとしたその顔を見て了承と受け取った。
「あまり無理をするな。今はこの国がお前の仕える場所だ」
ぽんと肩を叩かれた。
「もちろんです。私の命を救ってくださったのは殿下ですから」
「でも行きたいんだろう?」
「ええ。シュゼット様にお会いしたいのです。幸せかどうか、確認したい」
「会うのは難しいぞ。噂によると王太子が溺愛して、一歩も後宮から出てこないらしい」
その噂をリオもすでに聞いていた。
リオは服の下に隠してあるペンダントを手で確認する。そこにはオーフェリアからもらった赤い宝石の付いたペンダントがかかっていた。
どうしてもこのペンダントをシュゼットに渡したい。
リオはシュゼットとどうやって顔を合わせるのか、密かに計画を立て始めた。
******
謝罪と称してシュゼットと面会した。
シュゼットはリオが初めてオーフェリアと会った年齢と同じだった。
少し困ったような笑みを見せるシュゼットはオーフェリアにそっくりだ。そして、何よりも彼の色を間違いなく継いでいた。
美しい銀髪に透き通る紫の瞳。
最後に見た彼を思い出す。
憂いも陰りもない笑顔に目の奥が熱くなった。使節団の代表としての態度をとりながら、込み上げる感情を隠すように目を細めた。
デヴィッドがシュゼットに突っかかったが、反対にやり込められてしまった。オーフェリアにはない強い態度に見た目だけでなくフロイドの血を確かに引いているのだと感じた。
侯爵家に引き取られるまで、稼ぎが少なく辛い生活だったはずだ。それにもかかわらず、シュゼットはとても前向きで明るい。
幼いころと変わらない明るさにリオは安心した。
シュゼットがこの国で幸せに暮らしている。
憂いなく暮らせているのなら、リオがすることは決まってくる。
シュゼットのために、ポーシャを排除しなければ。
マリウスとの利害が完全に一致した。
色々と根回しをする前にポーシャは自ら墓穴を掘って、断罪された。寵姫の殺害未遂であった。戦争になってもおかしくはなかったが、表向きは精神的な問題からの行動として処理された。
戦争はお互いに避けたかったという事と、アンドリュー側もポーシャの性格を知って穏便に排除したいという思いがあった。ただし、寵姫の殺害未遂を握りつぶすのだから、それ相応の対応を期待するとアンドリューには笑顔で圧力をかけられた。




