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1 初恋


あー眠い。

マジで眠い。


今日でようやく中間テストが終わりを迎えた。

昨日は徹夜してしまったから、2連続の徹夜。本当にやばいな。さっきから眠すぎる。


この駅始発の昼間のガラガラの電車には俺を含めて今はまだ俺と同じ学校の制服を着ている女子しか乗っていない。

俺は悠々と車内に乗り込むと座席に座る。

少しだけ柔らかい座席と頭が当たる窓がいい感じに眠気を誘ってくる。


俺の最寄りはこの電車の途中の駅だけど、最悪、通り過ぎてもいいか。

それぐらい眠くて眠くてしょうがない。


俺はゆっくりとまぶたを閉じた。


それから、少し経った時だった。


「ねぇ、そこの彼女。これから僕らと一緒に遊ばない」


すごいチャラそうな声が聞こえる。

その声のトーンが眠い俺をイライラさせる。


「あの、私は結構です」


そんなチャラ男とは数段階小さい大人しそうな声がうっすらと聞こえる。


「いいじゃん。きっと楽しいよ!」


「心配しなくても、俺らは何にもしないって」


チャラ男、仲間もいるのか。

ということは1人の女の子を数人かの男が囲んでナンパしているのか。

気持ち悪。


「でも、私、これから、用事があるんですけど」


「大丈夫だって。一回ぐらいすっぽかしちゃって」


「そんな用事より俺らといる方が楽しいからな」


イライラする。

なんかこの声のトーンと話し方が俺の感情を逆なでしてくる。


「でも、忙しいし」


「大丈夫だって。心配しないで」


「あっ、でも本当に」


「いいから。いいから。ほら、早く」


「本当に用事が」


「だから、平気だって」


うるせーよ。

いい加減、諦めろよ。


というか、お前らの声に逆撫でされて、寝たくても寝られないんだけど。


俺を寝かせろ!!!!!!


眠さで少し感情の制限が甘くなっていたのも相まって、俺は思いっきり立ち上がると、その男どもの方を睨み付ける。

見てみると俺が想像したとおりに2人のチャラそうな若い男子と一緒に乗っていた女子高生がいた。


彼らも俺が思いっきり立ち上がる時に出た「ドン」という足音でパッと俺の方を向く。


「おめーら、うるせぇ!!」


寝不足の苛立ちも含まった鋭い声が響く。

少し落ち着こう。

さて、相手はどう来るかな?


「「す、す、すみませんでした!!」」


そう言うとさっきの彼らはちょうど着いた駅で怯えながらそそくさと走り去っていった。


俺の顔が怖いとか喧嘩強いヤンキー見たいとか言われたけどあんなに怯えるほど俺の顔は怖いのか?



そして、その車両に残されたのは急に立ち上がり話に顔を突っ込んだ俺と言い寄られていた彼女だけ。

扉が閉まり、列車が駅を発車する。


「ありがとう。どう言えばいいか迷ってたから」


列車が発車した途端に彼女が俺に感謝の言葉を述べる。


「別に。俺はただ睡眠を邪魔されただけだから気にしないでくれ」


というか、大部分の理由がこれだし。あの時は本当にうざかった。


「何かお礼」


「いいから何もしなくて」


マジで彼女を助けようとなんて思っていなかったのに、お礼なんておこがましいにもほどがある。


「でも」


「それじゃあ、俺、寝るから最寄りの駅で起こしてくれない?俺、『大所』」


なんかこのままお礼で張り合いそうだったし、ちょうどいいや。これで。

寝過ごすこともなくなったし。


「それでいいなら私はいいけど」


「よろしく。起こしても起きなかったら無理矢理は起こさなくてもいいから」


それだけ言うと、俺はゆっくりと瞼を閉じた。





「起きて」


肩を揺らされながら、静かな声が聞こえてきて、目を覚ました。

目の前には寝る前に頼んだ彼女の顔が至近距離であり、経験のない俺の心臓の鼓動が寝起きから跳ね上がる。


「お、あ、ありがとう」


「いいけど、駅」


急いで窓から外を見るとよく見る構内と駅を示す看板には『大所』と書いてあった。


「うおぁ、やべー」


急いでおいてある荷物を取って席を立ち上がる。

しかし、電車の扉はそんな俺をあざ笑うかのよう閉まっていった。

電車の発車音が扉の前に突っ立っている俺の耳に届く。


「ごめんなさい。頼まれていたのに、間に合わなくて」


「いや、起こしてくれていたなら、俺が起きなかったのが悪い。あと、起こしてくれたおかげで次の駅で降りられそうだし」


『大所』から次の駅までの所要時間は約4分。戻る列車を待って、戻ってもだいたい15分。

家に帰っても寝るぐらいしかすることがない俺にとっては別になんの痛手でもない。

それより、俺の最優先事項はこの空白の4分をどう過ごすかということだ。

彼女と話すべきなのか、話すならなんの話題にすべきなのか、何にも分からん。


えーと、どうしよう。


どうしようか考えて、結果的に何も言えないまま、電車は目的の駅に着いた。


「ええと、それじゃあ」


「うん」


ぎこちないながらも別れの言葉をいうと、俺は電車を降りる。

彼女が電車のドアの前から、まだ俺の方を見ていたので、何もしないのは悪いと思って軽く会釈をする。


顔を上げた途端に俺の景色が一変していた。

彼女が微笑んでいた。

それは笑顔ではなく、単なる微笑のみ。彼女からすればたんなる会釈だったのかもしれない。普通の表情なのかもしれない。

でも、その表情を見た途端に心拍数が異常なくらいに上がっていく。

彼女との間にドアが現れ、閉じてゆく。

そして、彼女を乗せた電車は俺の前から出発し、走り去ってゆく。

世界が少し華やかになった気がした。女子みたいだけど、胸のドキドキが治らない。

さっきまであった眠気はもう消えた。

そのまま少しの間、動けなかった。



これが一目惚れというやつなんだ。

恋はあっても一目惚れなんかしないと思っていた。




少し経ったあと、彼女の名前を聞かなかったことを本当に後悔した。

読んでいただきありがとうございます。


この作品は小説家になろうに投稿してますが、別の作品をノベルバというアプリ内で投稿しています。

よければ、見に来ていただけると嬉しいです。

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