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守られた威厳

かなり間が開き、申し訳ありません。

 三時間目は攻撃魔法の実習だった。

 二時間目は、フィーにお願いして、体調不良で保健室で休んでいたことにして貰った。

 さすが保健室の先生。

 色々話が分かるから助かる。


 僕が席に戻ると、すぐさまザック派の皆様の熱い視線を感じた。

 そんなに注目を集めるようなこと、僕、何かしただろうか?


「おい、転校生」


 ザック君、今は授業中です。

 ちゃんと前向いて、先生ミハエルのお話を聞きましょう。


「お前、どうやって逃げ出しやがった?」


 ザック君、そんな身を乗り出してまで睨まなくても……

 ほら、先生がこっちを……







 ーー全く見てねぇ……


 あのおしゃべりクソ野郎。

 どうやら典型的な事なかれ主義のようだな?


「いいかー? 攻撃魔法はな。注ぎ込む魔力で全て決まる! 故に、潜在的な魔力の量が多ければ多いほど有利なんだ!」


 と自慢げにはつらつとした顔でそう仰いますが、かなり違うよね。

 本当に教師なのか、ミハエル?


 そもそも、潜在的な魔力ってなんだ、それ?


 そう疑問に思った僕は、思わず手を上げていた。


「ん? 何だ、転校生?」


 ……お前まで転校生呼ばわりかよ?


「先生、その、潜在的な魔力の量って、なんですか?」

「おい、テメェ! 俺を無視すんじゃねぇ!」

「お〜、ジーザス! 転校生、君はそんなことも知らないのかね?」


 うわっ……

 何気に今、僕を馬鹿にしたな。おしゃべりクソ野郎!


「いやー、そのー、知らない訳じゃないんですけど」

「じゃぁ、どういう意味だ?」


「俺をシカトすんじゃねぇ!」


 ちょっ、ザック君!

 顔が邪魔だよ!


 僕は眉をひそめながらザックくんの顔面を避けてミハエルを見た。


「その、潜在的なって部分が引っかかって……」


 本当、引っかかるわ。

 だって、魔力の量が潜在的に決まってたら、どんな鍛え方したところで魔力の量が変わらないってことでしょ?

 おかしいな。


 ()()()()()()()()()使()()()使()()()使()()()()()()()()()()()()って、師匠に教わったんだけどな。


 あれー? 違ったのかな?


「おいおい転校生。君の脳みそはイかれてるのか? それともお花畑が広がっているのか?」


 ミハエルは両手を肩まで上げて手のひらを上に返してそう言ってきた。

 オーマイガーのポーズだなそれは。

 それより、その言葉は両方とも同じ意味になると思いますが?


「それでは仕方ない。説明してやろう」

「あ、結構です。大丈夫です。自分で調べます。授業進めて下さい」


 僕はそう進言したが、遅かった。

 彼は目を細くして首を横に振っている。

 あぁ、これはあれだ。


 余計な口を挟むな、しっかり聞いておけ!


 のサインですな、ミハエル君。


「いいか、まずは我々はどうやって魔力を操っているか。がポイントになる」


 なぜ気取った態度に加えて、腕組んで人差し指を天井に向けるんだ?

 たかが説明なのに。


「ポイントは、我々の目には見えない。しかし、我々を取り巻いているこの空間の中に答えがある」


 うっざ!

 いちいちキザなポーズで説明されんの、マジウザ!

 なぁにが、「答えはこの空間に……」だ。


 頭の中にお花畑咲いてるのは、君の方じゃないのか?


「我々が普段何気なく吸い込んでいるこの空気。この中には、魔法の根源たる源「マナ」が漂っているのだ」


 なぜか、クラス中に「おおー」というどよめきが湧く……

 ミハエル君、なかなか最もなことを言う。

 だが、なぜだろう。

 とても胡散臭く感じてしまう……


「そのマナを、魔法を発動させるための魔法式へと誘導し、魔法式の中をマナで満たす。すると、魔法式のスイッチが入り、魔法が打ち出されるという仕組みだ」


 と、ドヤ顔でクラス中を撫でるように見回すミハエル君。

 だが、その彼の視線の多くは、なぜか学級委員長に注がれている気もする。

 うん、ありがとうミハエル君。

 素晴らしい説明だったよ、本当に!

 胡散臭いけど!


「では実際に使ってみせよう。初歩中の初歩である、ファイアだ。ハァイ!!」


 とミハエル君が言うと、肩の高さに上げられて天井に向けられた右の手のひらの上に、ボッと小さな炎が現れた。

 驚いたよ。魔法、使えるんだな、ミハエル君。


「いいかEverybody! ファイアという魔法は、普段の生活でも広く使われている、初歩中の初歩だ。だが、そんな初歩の魔法だからこそ、基礎がしっかり出来ていないと全くのうんたらかんたら〜」


 ヤバイ! 聞いてて欠伸が出てしまう!

 しかし、ミハエル君のファイアの魔法式。

 どうしてあんなに複雑化されてるんだろうか?

 あれじゃ、注ぐ魔力の寄り道が多すぎて無駄に消費してしまうぞ?

 それとも、意図的にそうしているのか?

 ーーなら、何のために?


「因みにー! ファイアのように下位魔法と指定されている魔法については、上位魔法もあるからなー」


「はい!」


 ミハエル君、聞き逃さなかったよ。

 上位魔法ねぇ……

 彼の言葉を聞いて、僕はシュパッ! と元気よく手を上げた。


「……なんだ、転校生?」

「はい。先生が仰るその上位魔法。見せて頂けませんか?」


 僕がそう言うと、クラス中がどよめいた。


「おいおい、転校生! 何生意気言ってやがんだ、あぁ?」


 と絡んでくるザック君だが、その顔はなぜか嬉しそうにほくそ笑んでいる。

 ははーん。

 さては、君も見たいんだな?


「先生。ファイアの上位魔法は、爆炎(エクスプロード)爆熱(プロミネンス)ですよね? どちらも、先生なら……」


 ん? どうした、ミハエル君。

 ()()()()()()()()()()()


「先生、マジでー!?」


 一人の男子生徒が勢いよく立ち上がって歓喜の声を上げた。


「すげー! 先生、上位魔法使えんの!?」

「さすが、有名な魔法使いに弟子入りしていただけのことはあんなー!」


 と次々と立ち上がる男子生徒。

 なんて事はない。

 どれもこれもザック君の取り巻きだ。

 お前たち鬼だね、ミハエル君も外堀り埋められて可哀想に。

 あれじゃ、やらない訳にいかないな。


 どうする? 先生。


「待て待て待てー! こんな狭いところでぶっ放したら教室が壊れてしまうじゃないか」


 ミハエル君、そんなこと言ってもムダだ。

 逃がさないよ。


「大丈夫ですよ、魔力を絞れば」


 と、軽くジャブで牽制。

 途端にミハエル君の顔から血の気が引いた。

 上手く入ったみたい。


「よっ、先生! 気にせずやっちまえ!」


 ザック君、君も攻めるねぇ。

 僕が素早く席に座ると、ミハエル君は笑顔が固まったまま、静かに窓の方を向いた。


「あーそうだなおまえたちけがしないようにしろよーけがしたらたいへんだからなーはなれてろーはなれてみとけよー」


 クックック……なんて棒読み……

 ザックめ、ナイスフォローとしか言いようがない。

 だが、僕はミハエル君の無能っぷりを披露したかったわけではない。

 その無意味な知識をどこまで披露するかを見たかったんだが、まぁいいや。

 ミハエル君は窓辺にそっと立ち、手のひらを外へと向ける。

 窓、閉まってるけどね。


 そして、小さくファイアを出した。


「「「おおー!」」」


「先生! 見たいなぁ! 先生が絶賛してやまない、あの戦争の時に使ったって言ってた大魔法!」

「天地渦巻く魑魅魍魎共を一瞬でなぎ倒した、無敵の超魔法だ!」

「よっ、この英雄! にくいねチクショー!」


 ザック君と愉快な仲間たちよ。

 ちょっと煽り過ぎじゃなね?

 ほら先生、完全にカチンコチンじゃん。

 しかし、バカだなミハエル君も。

 できないことをさもできるように振舞っていたってことか。

 これでできなけりゃ、教師としての威厳はもはや無に等しい。

 彼のプライドはきっとズタボロに。

 そうなれば、生徒が図に乗る(今もだけど)。


 あ、ちょっといけない方向に行きそうな予感。

 ライトマンとの約束は守るか。


「よくみておけよこれがじょういまほうだー」


 力なくメリハリもない声色でミハエルはそう言う。

 そして手のひらからチョロリンと炎が揺らめいた時……


 ーー僕は机の下で人差し指をミハエルに向けた。


 瞬間ーー





 ドゴォォォォォォォォォン!!







 凄まじい爆音と共に教室中に立ち込める土埃!

 しまった、ちょっと魔力を注ぎ込みすぎたか?

 少しのつもりだったんだけどなぁ。

 制御は難しいぜ……


 ちょうどいい。

 この視界の悪さなら僕が魔法を使っても分からないだろう。

 こんな空気の悪いところに居続けるのは体に悪いし。


 僕は風魔法を使って弱い渦巻きを作り出し、埃を乗せて外へ飛ばしてしまった。

 すると見えてきたのは……



 ポッカリ空いた壁の前に呆然と佇む先生(ミハエル君)

 何が起こったか、理解できていない生徒諸君。

 ミハエル君は薄汚れた顔を静かに僕たちに向け、そっと口を開いた。


「……これが、魔法だ……」





 その言葉にドッと湧く生徒たち。

 威厳を守れて良かったな、ミハエル君。


 この日から、ミハエル君は魔法の名手という噂が歩き始めた。











ここまでお読み下さり、ありがとうございます!

皆様からの評価、感想はとても励みになっております!


これからもよろしくお願い致します(^-^)

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