僕、絡まれる
拙い文章ですが、よろしくお願い致します。
「おい、転校生。ちょっとツラかせや」
ツラをかせとはどのツラか?
ようやく一限目が終わったのに、これか?
それにしてもつまらなかったなー、何だあの授業。
あのミハエルって教師。
大したことないんだなー。
何が「魔族に対してはだなー、光だー。光魔法が有効だー!」だよ。
魔族は確かに闇属性の魔法が使えるけど、それはあくまで使える属性の一つであって、「魔族=光属性に弱い」ってのは成り立たない。
そんなことすら知らないとは。
ライトマン、ご苦労察します。
「おい、無視してんじゃねぇよ!」
おおっと、しまった忘れてた。
このザック君と愉快な仲間たちの存在が一瞬飛んでしまってたよ。
「あぁ、ごめんごめん。取り敢えず、どうしたらいいのかな?」
「あぁ? 何生意気言ってんだ、こいつ?」
とつぜん胸倉を掴まれた。
なるほど、これが君の自己権威の表し方なんだな、ザック君。
取り敢えず、苦しいフリを……
「うぅ、くる、苦しい、よ……」
「ウダウダ言ってっからだぁ! おら、こっち来いやぁ!」
と力任せに、僕を引っ張っていくザック君。
あれ? 学級委員長。君は止めないのか?
視線だけでササッと教室内を見回すが、さっきの学級委員長の姿はない。
へぇー、こんな面白いときにいないとは。
まぁ、何かあっても何とかできるし。
このまま、引っ張られていってやるか。
ーーということで、連れてこられたのは男子トイレだ。
何故「ツラを貸せ」と言えば、トイレに連れて行かれるのだろう?
トイレってさ、擦り切れるような日々の雑踏の中で唯一孤独になれる神聖な場所のはずなのに。
どうしてこういう輩はやたらトイレに気に入らない者を連れ込むのか?
そして取り囲むのか?
あ、そうか。
僕は彼らにとって気に入らないという訳か。
そう言えば昔いたよなー、こういう奴ら。
みんな、戦争で死んだけど。
「おい、転校生」
ザック君は、トイレに入ると胸倉を掴んでいた手を離した。
おぉ、自由になったぞ!
さて、どうしようかな。
なんて考えてたら、ザック君は僕の目の前に顔を寄せて、眉間を八の字に歪めてきた。
何がしたいんだ?
「お前よぉ、幸運だぜ?」
あぁ? とか語尾につけて凄んでらっしゃるザック君。
うーん、まったく意味が分からない。
何が幸運なんだ?
僕は首を捻って考える。
が、答えは出てこない。
すると、ザック君がドヤ顔を見せながら教えてくれたのだ。
「今日から俺たちがお前の友達だぁ!」
……
ーー絶対嫌だ。
例え天地がひっくり返ったとしても、君たちと友達になることは決して考えられない。
申し訳ないが、その提案は受け入れがたいよ、ザック君。
「良かったなぁ、喜べよ! この学院一の派閥である、ザック派に入れてもらえるんだぜ?」
ん? ザック君は今なんて言った?
派閥って言わなかったか?
僕の学生時代にはあまり耳にしなかった言葉だな。
僕は思わず顔をしかめてみせた。
ところが、それがザック君は気に入らなかったみたい。
「あぁ? テメェ何嫌そうな顔をしてんだ、コラァ?」
と凄まれてしまった。
「ん? いや、別にそんな顔は……」
僕は早速否定に入る。
が……、すでにザック君はご立腹のようだ。
眉間にめーっちゃシワを寄せながらグリグリ顔を動かして睨み付けてくる。
そんな短気で派閥のトップを語るとは。
聞いて呆れるね。
「俺がせーっかく入れてやるっつーのによ! 気に入らねぇ訳だな? あぁ??」
そんなこと言われてもなー。
派閥とか興味ないし。
そこはオブラートに包んだ感じで伝えておくべきだな、うん。
「興味ないから、派閥とか」
ーーあ。
やべ、オブラートどころかストレートに言っちゃった。
「それに、派閥なんてただのお友達ごっこでしょ? ただ馴れ合う関係っていうのは、どうも馴染めなくてね」
おー、ジーザス!
僕の口はなんて正直なんだ!
心に思っていることが、すらすら口をついて出ていくよ!
「……」
そんな僕の本音が効いたのか、ザック君の表情はみるみる歪んでいくのです。
これはまずいな、ちょっと言い過ぎたかな?
「……テメェ、いい、度胸してやがんなぁ」
あー、こうさー。静かにモノを言う時って、大概ブチ切れてる時だよねぇ。
そして、握り締められる拳には、「これでもか!」ってなくらい力が込められて。
「ぶっ殺してやる!」
と物騒な言葉を並べ立てて突っかかってくる。
もう、テンプレだなザック君。
さて、こんなところでつまらぬ言い掛かりを付けられて殴られるのもどうかと思う。
ここはサッサとお暇しよう。
僕は彼らに見えないように右手の人差し指と中指を重ね、そこに魔力を注ぐ。
「時は砂なり」
すると、さっきまで勢い付いていたザック君の動きが急に緩やかに……
と言うよりも、超スローになった。
何をしたかと言うと。
僕の周りに流れる時間だけを緩やかにする魔法を使ったってわけ。
注ぐ魔力の量でその速度は変わるんだけど、僕の場合、制御して少なめにしたとして、元々の魔力量が尋常じゃないらしく。
思ってた以上に注いじゃう。
結果、超スローになってしまうって訳。
多分、普通の人が同じような効果を狙ったら、ごっそり魔力持ってかれるかも。
そんなこんなで超スローのザック君。
その横をすり抜けるだけじゃ面白くないので、僕はザック君を愉快な仲間一号の近くへ寄せて、その拳を一号の頬に寄せてみた。
よし、これでオッケーだ。
僕はサッとトイレを出て教室へと戻った。
教室の中もトイレ同様、時の流れが超スローになっている。
軽く見渡すと、委員長の姿を見つけた。
へぇ、僕が連れ出された時にはいなかったのに。
これは何かあるのかな?
何だか、正義の味方ヅラしてる彼女が気に食わないので、ちょっと挨拶しとこう。
メイクを直している女子生徒から口紅を拝借。
委員長の前に立ち、エル特製スペシャルメイキングを施して。
この口紅は貸してくれた彼女に戻し、僕は席に着いた。
さて、どうなるかな。
はやる気持ちを抑えつつ、僕は指を弾いて魔法を解除!
時は戻り…………
「キャァァァァァァァ!!」
「レ、レイチェル(委員長の名前)! ど、どうしたのその顔ーー!」
「うわぁぁぁぁぁぁ! ひでぇ、委員長、悪魔みてぇだ!」
「な、な、何? 何何何ーー!?」
おーぅ、委員長。
慌てて顔を覆って教室から出て行っちゃった!
そして……
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ザック君の、雄叫びを上げてカムバック。
「転校生! いつのまにか戻りやがったぁぁぁぁぁ!」
ズカズカと僕の席にやってくるザック君の後ろには、目元を大きく腫らした一号の姿が……
プッ、ククク……!
ヤバい……!
笑いが込み上げてくる……!
「おい! 聞こえてんのか!? 顔あげろや、こるぁ!」
「ぼ、僕、お腹痛いから保健室に行ってくる!」
笑いをこらえながら、僕はそんな言い訳を残して教室から飛び出した!
「待ちやがれーーー!」
もちろんザック君たちも追い掛けてくるが、それは織り込み済み。
僕は能力向上魔法で足を俊足にし、廊下を駆け抜けてやった。
どうだザック君、追いつけまい!
いやぁ、ライトマン。
君には聞きたいことが山ほどあるぞ。
首を長くして待っていろ!
僕はそのまま、ライトマンのいる学院長室へと向かった。