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彼の名はエル

新作投稿です。

拙い文章ですが、よろしくお願い致します。

 ドルフナッチ魔法学院。


 ここ、ルーレイナ帝国において、多くの魔法使いを輩出することで有名な魔法の専門学校だ。

 かの大賢者、「エル・レスター」もこの魔法学院の卒業生と言われており、取り敢えずここに通って卒業さえすれば、何かしらの仕事にありつけるとさえ言われている。


 ネームバリューとは恐ろしや。


 その学費や馬鹿高く、貧乏人は入ることはおろか、試験すら受けることが難しい。

 裕福な貴族や国務に携わる家系、学院にコネがある者など、入学する者は限られるなどと言われたのは、もはや昔のこと。

 かつて、大賢者と共に世界を救った英雄「ライトマン・ザ・ライト」が校長に就任してからは、貧富や身分に関係なく、誰でも学ぶことのできる、開けた学校として国中に名が知れ渡っている。


 彼が、


「身分の差で才能のある者がそれを活かせないのは国の恥だ! この国をより良き方向へ導く希望の光として、学院は学ぶ機会を与える責任がある!」


 と、この国の教育庁のトップの胸倉を掴み、唾を掛けたというのは有名な話だ。


 後々になって、


「ちょっとだけやりすぎたかな。HAHAHA!」


 と爽やかな笑顔で爽やかにそう言ったそうだ。


 ライトマンの就任以降、学院は才能のある者を伸ばすことに視野を向け、実際結果も挙げてきた。

 そのせいか、才能のある者が鼻を高くし、またそれを指導する教師側にも、


「自分たちが教えれば当然才能は伸びる」


 と怠慢な態度が見られることが増えてきた。

 実際、優秀な成績を収めて卒業する者の中には、性格がひん曲がって、就職した先でトラブルを起こす者も増えてきている。


「こんな奴を卒業させるなんて! 学院はどんな教育を施しているのだ!」


 なんて苦情も入ってくる始末。


 このままでは、名誉ある学院の看板に泥を塗るばかりか、評判を大きく落とすことに繋がりかねない……

 何か手を打たなければ!


 この事態を重く受け止めたライトマンは、古き友に学院救済の打診をした。


「この学院を変えて欲しい」と。

 

 既に世捨て人となり、人と関わることに嫌気を感じて姿を消していた友人は、友を助けるため、約百年ぶりに母校の校門をくぐることとなった。


 彼の名はエル。


 九十年ほど昔。

 人間と魔族が戦った「ラドナ戦役」に於いて、英雄として人間側を勝利に導いたと言われ、かつ大賢者と呼ばれた男。


 果たして、彼はライトマンの要望に応えることが出来るのだろうか?


ーーー



「断る」


 いきなり現れて何言ってやがるんだ、この野郎!

 僕がそんな顔と態度と口調で言ったもんだから、ライトマンは渋い顔をしている。

 ほらほら、汗が出てきたぞー。

 それ拭うのにカツラ外してハンカチで……


 え?

 あら。

 そうかーー。


 ーーライトマン。

 この百年の間で見た目もライトマンになっちまったな。


 ようやく名前がお前に追いついたって訳だな。

 おめでとう、親愛なるライトマン。


「そう言うな、エル。お前の力が必要なんだ」

「何が必要だって? 王国から単独で世界規模の大災厄というありがたい称号レッテルを張られたあげく、歩くだけで災害と褒め称えられたこの僕の力なんて、この平和というクソッタレなぬるま湯に浸かっている現在に必要ないじゃないか」

「……言い過ぎだ、エル」


 ライトマン。そんなに落ち込むなよ。

 僕だってこんなこと言いたくないんだ。

 けれど、言わざるを得ないんだ。

 誰があんな仕打ちを考えたんだ?


 街を歩けば騎士団に追われ、外を歩けば魔族に追われる。

 どこを歩いても何かに襲撃されるから安心して買い物も出来なかった。


 僕の理想は……


 ちょっと山間にある、美しい湖畔にたたずむ小さな小屋で静かに暮らすことだったんだが。

 それが、国家に監視されて定められた制約ルールの元で幽閉されるっていうVIP待遇に変わってしまった。


 お陰で買い物ができないからひたすら通販に頼るしかなかったけどね。

 それは今も変わらないか。


 それにしても驚いたよ。

 僕というちっぽけな人間一人のために、人間と魔族が結託するなんて。

 お陰で世界から紛争が消えた。


 よく考えれば、僕は世界平和に大いに貢献していると思うんだがなぁ……


「まぁ、お前の力はこの私も重々承知ではあるが」


 と考え込むライトマン。


「そんなに平和を脅かしているとは思えんのだがなぁ」

「そこは価値観の違いというものだよ、戦友。かつての戦いを思い出したまえ。勇者が何をした? あのクソ野郎。魔王の軍勢を見た途端、僕らの後ろに下がってギャーギャー喚いてただけじゃないか。それなのに、報告では全て自分の手柄だ。こっちはいい迷惑だよ」

「その勇者に対して、魔法で【ピー】を【ピー】して使い物にならなくしたのは、どこのどいつだ? お陰で私はいつも愚痴を聞かされた」

「残してやっただけありがたく思って欲しいなぁ、一応機能はそのままでダウンサイジング出来たんだから」

「お前は悪魔以下だな」

「褒め言葉と受け取っておくよ」


 僕は笑みをこぼしながら、ライトマンの空いたカップにお茶を注いだ。


「しかし、探し出すのに骨が折れたぞ。姿をくはましてからこの百年。こんなところで暮らしていたとはな」

「ライトマン。一応言い訳はしておく。悪いのはあいつらだ」

「極大消滅魔法で施設ごと消えた件のことか? 施設はなくなるわ、地形は変わるわ、クレーターが出来るわで大騒ぎだったな。まぁ、俺は地図の修正だけをしただけだがな。それでも焦ったぞ。お前が消えたと聞いたときは」


 チッチッチ、戦友。

 あれは消えたんじゃない。

 姿を消したんだけさ。

 そんなこと言わないけどね。口は災いの元だから。


「カタログショッピングなんて、僕には合わなかったんだ。だから外に行きたいって訴えただけなんだぜ? 子供の駄々と変わらない」

「その駄々で国家予算が傾いたんだそ。数年間は赤字だったと聞いている」

「なら聞いてくれれば良かったんだ。そうすれば、こんなところにわざわざ住処を作らなかったのに」

「こんなところねぇ」


 ライトマンはそう言って、部屋の中をグルグルと見回している。


「空間を捻じ曲げただけの簡素な造りさ」

「それにしては……」


 ライトマン、そっちを見るな。

 そっちにはとても大切なものが……


「あれは……、ダルダシア帝国の図書館に保管されている古代の文献じゃないのか。それにあの魔法陣……え! ちょっ、お前! あれは流石にまずいだろ!」

「案ずるな、戦友。バレなければ問題ない」

「あんなもん使ったら即バレるわ! 一体何を考えてる!」

「ラブアンドピース」


 僕は両手でピースを作ってウニウニ動かしてみた。


「僕は常に善良でありたい」

「そういう割にやることは魔族以下だがな。常に善良でありたいなら私に協力してくれ」

「それとこれとは話が別」

「なぜ?」

「メリットがない」


 僕ははっきりとそう言った。

 だって、本当にそうだから。

 ライトマンにとってはメリットがあっても僕にとっては何のメリットもない。

 むしろデメリットしかないんじゃないか?

 僕自身、精神メンタルは強くない。むしろ劇弱だ。

 母校に戻れって言うけれど、僕がガキを前に教鞭を振るうなんて考えたこともない。

 そんな、ストレスが溜まる仕事なんてやりたくないよ。


 第一、僕は自他共に認める「感覚派」だ。

 魔法式を分解して詳細をまとめることなんて、土台無理な話なのだよ。


「と言うわけで、ライトマン」

「メリットならある」

「は?」


 立ち上がろうとした僕には向かって、ライトマンの目が光る。

 いや、頭が光る?

 むしろ、デコ?


「母校が建っている場所には、かつて遺跡があった。いや、埋まっていると言った方が正しいか」


 それがどうした?

「封印されし何かを守る為」にわざとあの場所に母校を建てたんじゃないか。

 そんな有名な話……


「封印されしもの。それはな、古代の秘術だそうだ」


 あ、やばい。

 その言い回しはズルい。

 古代と聞いただけで真似が疼くのに、そこに秘術とは。

 その後に続く言葉に、大いに期待しちゃうよ?


「引き受けてくれるなら、その美術の解明。お前にまかせても構わん」

「マジかライトマン?」

「マジだ」


 ライトマン、君と親友で良かった!

 あぁ、眩しい!

 まるで後光が射しているようだよ、ライトマン!


「それで、僕は何をすればいい?」


 こうなったら僕は君の下僕として協力しよう!

 惜しむことなく、我が力を発揮しよう!

 英雄と呼ばれる者を少しでも多く輩出出来るよう、奮闘しよう!


 ついでに校内のスキャンダルとか、怪しい男女の関係とか、君と年がひ孫かっちゅーくらい離れている奥さんとの関係を潤沢に出来るよう、君のジョニーを魔法でムキムキにだってしちゃおう!


 君秘術のためなら、僕は何だってしようではないか!


「ライトマン」


 僕は右手を差し出した。

 友情と友好を示す象徴である、右手を。

 ライトマンも立ち上がり、ガッチリと右手を組んだ。

 よし、これで締結だ!


「よろしく頼む、戦友!」

「あぁ、ところで僕は何をすればいい?」


 君の光を、モサモサで塞げばいいのか?

 それとも放課後、教師の指導力を上げるために個人レッスンをすればいいのか?

 出来の悪い生徒に特別授業と称してスパルタトレーニングを課せばいいのか?

 保健室の先生と仲良くなって、全ての情報を牛耳ればいいのか?


 さぁ、ライトマン!

 僕に何を望む?


「転校生として、授業に参加してくれ」

「任せろ、お安いご用だ」


 いや、待て。

 ちょっと待て。


 転校生? 授業?


 何の話だ?


 僕は顎に指を添えてしばし考えた。


「ちょい待ち、ライトマン。転校生? 授業? 僕は教師として……」

「お前が教師なんてやったら、どうせスパルタトレーニングとか、魔力を上げるためにとか言って美人教師とイケナイレッスンとか、保健室で保健の先生とお茶をすすりながら情報を牛耳るとか、何かしら企むだろ?」


 はい、正解……


「だから転校生だ。転校生として学校に潜り込んで欲しい。何やら怪しい動きがあるのでな」

「それなら尚更教師が……」

「話が飲めないなら、あの件はなかったことに」

「いや、まてライトマン。この僕の力は世界平和の前に母校の平和のために活かされるべきだ!」


 この時点で、既に僕はライトマンの手のひらで転がされていた。



「帰ろう、母校へ!(転校生として)」







 ……やはり、僕の精神メンタルは劇弱だ。








 かくして、世界を救うはずが、逆に恐怖のどん底に叩き落としたかつての大賢者「エル」は、母校であるドルフナッチ魔法学院へ、「転校生」として戻ることになった。


 









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