第五話 温泉の効能は?
お久です。
~魔王城 裏庭~
轟々と音を立てて吹き上がる熱湯。
「ねぇ、マグナ様? これ――どうするんすか?」
「そう、それを相談するためにお前らに来てもらったんだよ」
「つまり、ノープランということじゃないっすか‼」
温泉旅館計画を進めるためにはこの源泉の管理が不可欠であるのだが・・・なにぶん我らには専門知識がない。
タキも営業に関することは相談できるが、この世界の技術に詳しくない以上、元の世界の様にはいかないだろう。
そこで何とかこの源泉を管理する方法を見つけようとしているわけなのだが・・・
「さて、何から手を付けていいものか――」
「ウー ウー?」
俺たちはさっそく足踏み状態となってしまったのである。
「と、とりあえずですが! 源泉の効能を確かめるというのはどうでしょうか? まず、入っても大丈夫なのかという問題がありますから」
見切り発車の計画とは言え、なんともまぁ後手後手だな、俺は。
タキの提案にこの計画の致命的な問題が発覚したところで、とりあえずやることは決まったわけだ。
「よ、よし! そうと決まればさっそく始めるぞ!」
「でも、いったいどうやって調査するんすか?」
「ガウゥ?」
二人が心配そうに俺の顔をのぞき込む。
「俺に考えがあるんだ! まぁ、任せといてくれよ!」
俺は源泉に手をかざすと魔力を込める。
「防御魔法:リモート・リジョン」
間欠泉の根元部分に半透明の箱状のエネルギーが収束する。
「これは魔法ですか?」
「あぁ、マグナ様の得意な魔法の一つ。リモート・リジョンっすね。あの箱は結界になってて、使用者の思い通りに移動させることもできる優れものっす!」
「そ! これでお湯を汲み取って調査・・・ってえぇ‼」
結界はお湯を汲み取るどころかまるで氷の様にお湯に溶けていく。
「これって、一体どういう事っすか?」
「魔法が溶けるなんて聞いたことないぞ⁉」
これがこの温泉の力なのか?
そもそもこの魔王城の地下って何があったっけ?
「ウゥウ、ガァウア!」
ディアモンが俺に任せろと言わんばかりにどこかへ走っていったかと思うと、何かを抱えて戻ってくる。
「ん? それってお前のコップじゃないか?」
ディアモンが持ってきたのは岩で作ったディアモン専用のコップ。
コップといってもディアモンサイズであるが故に俺たちの身体がすっぽり入る大きさである。
ディアモンの案は大成功で、源泉のサンプルを手に入れることができた。
「なるほど、魔法がダメでも物理的なアプローチならいけるってことか!」
感心しながら、ディアモン特性の即席風呂を見つめる。
「さてと、こっからはお前の出番だぞ。ブライ!」
俺はそう言いながら、ブライの肩に手を置く。
「へ? 俺っすか?」
「この温泉の調査において、力仕事では右に出る者がいないディアモンとお前の固有スキルが必要なんじゃないかと思って連れてきたが、どうやら当たりだったようだな!」
俺が自分の目論見が当たりにんまりしていると――
「温泉調査に役立つブライさんのスキルって何ですか?」
「えっと・・・俺そんな便利なスキル持ってましたっけか?」
タキがブライの方を見たが、本人も心当たりがないようだ。
「まぁ、俺に任せとけって! まずは、このお湯を鑑定してみよう」
俺は湯船に近寄ると意識を集中させる。
「汎用魔法:ワイズ・スコープ」
ワイズ・スコープは鑑定能力に特化した魔法で対象がレジストしていない限り、大抵の性質が読み取れる。
まぁ、しばらくガン見しないといけないっていう欠点はあるけど・・・
※
マグナが湯船をガン見している間、タキと幹部二人は談笑を始めていた。
「あのぉ、ブライさん」
「ん? なんすか?」
タキはマグナの方を一瞬気にすると切り出した。
「魔王さんって普段はどんな人なんですか?」
「マグナ様っすか? 大体あんな感じっすけど?」
「ウゥガァガ‼」
ブライの答えにディアモンが頷く。
「頑張って威厳を保とうとしているのは分かるんすけど、ついついフランクになっちゃって結局、尊敬されるっていうよりも好かれちゃうって感じの人っすよ」
「ウーガー」
「この前なんて一緒に飲んでたらっすねぇ! アイタッ!」
ブライが話を始めようとした時、マグナの拳がブライの頭を直撃する。
「コラ! 人が必死に仕事してる後ろで何サボってんだ!」
ブライたちが顔を上げるとマグナが腕組みをしながら立っていた。
「あ、ごめんなさい」
「いやいや、タキは俺たちに協力してくれてるんだから良いんだよ。ディアモンもさっきから活躍してるしな・・・でも、お前はまだ何もしてないだろうが! お前一応、俺の部下だよね? ボスが働いてるのに雑談とはいい度胸じゃねぇか!」
「い、いやぁ・・・何も言わずに集中モードに入っちゃうもんすから暇だったんすよぉ!」
「なら喜べ! 今からがお前の仕事だぞ!」
マグナはそう言うとブライを引きずって湯船に近づいていく。
「チョッ! マグナ様、何しろっていうんですか? そもそも鑑定はうまくいったんすか?」
ブライは焦ったように立ち上がるとマグナに質問する。
するとマグナは首を横に振った。
「尋常じゃないほどの魔力が含まれている事は分かったんだが、それ以上は魔法が阻害されて分からなかった・・・そこで作戦を変更する!」
「作戦変更?」
「あぁ、直に入ってみれば分かる作戦にな!」
マグナは不敵な笑みを浮かべ、ブライを見る。
「お前はドラゴニュートで竜鱗の鎧がある。つまり、熱変動には絶対的な耐性があるはずだ!」
「ま、まぁマグマの中でも大丈夫って自信はありますけど・・・やっぱり怖いっすよぉ!」
お湯に入ることを渋るブライ。
マグナが説得を試みるが、なかなか動こうとしない。
そんな状況を見ていたタキとディアモンだったが・・・
「ガウアァ!」
「え? チョッ・・・ディアモン? さっさと行きなよって・・・あ! アァァァァァァ‼」
ブライはディアモンにつままれると湯船に突っ込まれてしまったのだった。