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おいでよ!魔界温泉♨ ~若女将と創る魔王旅館~  作者: ROM-t
第一章 創ろう! 魔界温泉♨️
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第三話 魔王の野望と温泉会議!?

 円卓を囲み、魔王である俺を中心に六人の幹部が席についている。

 そんなそうそうたる顔ぶれの中で俺の隣に座っている人間の女性は青ざめた顔でうつむいていた。

 城の者に着替えを用意してもらったので、この世界の衣服を身に纏っている。


「皆、復興作業が忙しい中、集まってくれてありがとう。早速だが、これからの魔界の方針に関する会議を始めたいと思う」


「それは良いのですが……」


 クレイアがため息交じりに声を漏らした。


「魔王城の裏庭に噴き出しているアレ。魔王様の仕業ですよね? それに……」


 クレイアは流し目で俺の隣の席を見る。


「なぜこの大事な場に人間がいるのです?」


 この言葉で部屋の中に一瞬、張り詰めた空気が流れた。


「それも含めての会議だ。勇者の襲撃直後でピリピリするのはわかるが少し落ち着いてくれ」


 クレイアは俺がなだめると視線を外す。

 俺は咳払いをすると立ち上がり、話を切り出した。


「まずは彼女の紹介をさせてもらう」


 俺が促すと彼女も立ち上がり、直立不動の姿勢となった。


「か、加賀見 瀧です!」


 そのまま直角に頭を下げ、ガチガチのまま立っている。

 まぁ、魔族を知らなかったのに、いきなり幹部たちを見ればこうもなるか。

 少し可哀想なことをしたなと思いつつ、俺は話を続ける。


「彼女は転移者だ。以前の世界には魔族はいなかったらしいから緊張しているのも無理もない」


「転移者……それは本当ですか? 人間の手先という可能性は?」


「クレイアが疑うのも無理はないが、転移者特有のスキルも確認しているし、何よりあの間欠泉の中から飛び出してきたんだ。転移者であることは疑いようがないよ」


「転移者かぁ! 俺は初めて見たけど普通の人間とあまり変わらないんすねぇ!」


「ブライ、あまりまじまじと見ては魔王様のご客人に失礼になるぞ。」


 珍しいものを見る様に眺めるブライをテイラーがたしなめる。


「さて、俺たちの方も改めて紹介させてもらおう」


 俺は幹部たちの顔を伺いながら、紹介を始めた。


「まず、一番左の席に座っているのがクレイア。宰相を務めてもらっている」


 いまだ不満げなクレイアだが、俺の紹介に頭を軽く下げる。


「その横から順にリオン、ブライ、テイラー、シエラ。そして最後のデカいのがディアモンだ」


 俺は幹部たちを順々に紹介し、彼女に向き直る。


「そして、俺がこの魔界を一応だが統治している魔王。マグナだ」


「魔王様! 一応はやめてください! それに人間に対して砕けすぎですよ! もう少し威厳というものを……」


「まぁまぁ、クレイア殿。今はその辺で……」


 俺の軽い挨拶でクレイアの御小言スイッチが入りそうだったが、テイラーが宥めてくれたおかげで事なきを得る。


「ハ、ハハ……本当に魔王だったんですね」


 彼女が蒼い顔でひきつっているがとりあえず話を先に進めよう。


 諦めかけていた俺のスローライフを実現の夢。

 そこに射した一筋の光明である温泉旅館という最終兵器!。

 それを最大限に活かすためには幹部たちの協力が必要不可欠なのである。


 ということで設けた今回の会議。

 絶対に失敗するわけにはいかねぇ!

 さてと――勇者にも出さなかった本気を出すとしよう。


 固有スキル:魔王覇気

 その他、威圧系の魔法を複数発動させて――っと、このくらいでいいだろう。


「さて、そろそろ本題に入ろうと思う。皆、心して聞いてくれ」


 俺の声が会議室に響き、幹部たちの顔が引き締まっていくのが見えた。

 それに伴い、俺の緊張もMAXだ。


「今回の勇者の襲撃で我は力及ばずに敗北した。かろうじて命を拾ったが、人間どもがこれほどまでに力を蓄えているとなると我々も策を講じなければならないと思う」


「魔王様ぁ……まだ勇者に負けたこと気にしてるんですかぁ? そんなのたまたま調子悪かっただけっすって!」


 ブライが空気を読まずに気が抜けるひょうきんさで切り出した。


「たかが一回の失敗で気にしすぎっすよ! ほらこの前だって――」


「ブライ――黙ってろ」


 俺が刺すような視線にありったけの威圧を込めるとブライは身震いをして固まった。


「――して魔王様、その策とはいかようなものでありましょうか?」


 テイラーが場の空気を再び整えるように本題に戻してくれたので、話を続けるとしよう。


「うむ、このまま全面戦争にでもなれば、魔界の民にも大きな被害が出てしまう。そこで、戦闘行為を行わないままに奴らを弱体化させることが必要なのだ」


「戦闘行為を行わずに!? 真っ向勝負で打ち破るんじゃないのかい?」


「人間界に毒でも流すのか? ならば私の部隊が適任であろうな――」


 幹部の女性陣がとてつもなく物騒な話をしていらっしゃるから早いところ全貌を話そう。


「まずは奴らの情報と経済を手中に収めようと思うのだ!」


 俺の言葉に幹部たちがざわつく。


 この時のために用意した策(建前)はこうだ。

 俺たちは一人一人の力は強力だが、国力・兵力・支援力は広い国土と膨大な人口を誇る人間の方がはるかに有利なのだ。

 さらに言えば、人間どもの技術や文化を全くと言っていいほど知らない状態では極めて不利な状況に置かれる可能性もあるわけだ。

 そこで、情報収集と人間界の外貨獲得を行う上で最も適当だと思えるのが――


「我々は温泉旅館を経営する!」


 俺は思わず立ち上がり、テーブルを叩いていた。

 思い切り殴ったせいで右腕が全体的に痺れているが、それは内緒に――。


「「オンセンリョカン!?」」


 幹部たちが一斉に声を上げるが……


「それ……なんですか?」


 うん、だろうね。

 俺も知らなかったし、幹部たちも知らなくて当たり前だと思う。


「その転移者の入れ知恵ですか――」


 今まで黙っていたクレイアが口を開いた。


「そのオンセンリョカンという代物が如何様なものかは知りませんが、魔界が力を注ぐに値するものなのか――」


 うぐぅ、やっぱり一番の難関はクレイアだったか。

 魔界宰相の名は伊達じゃないって訳だ。


「まずは、詳しくお話を伺わせて頂きましょうか。そのために彼女がいるのでしょう?」


 クレイアの視線が俺の隣の席に移る。


「そ、そうなんだ。彼女は元居た世界で温泉旅館に勤めていたそうでね。しかも彼女の能力は彼女のイメージを視覚情報として他者に伝えられるようでね!」


 俺はもはや石化しているように固まっている加賀見さんを促し、思念会話で頼み込む。


『加賀見さん! こいつらに温泉旅館の説明をお願いします。あと、さっきやったみたいに映像も!』


 彼女は俺の声に我を取り戻したように立ち上がり話し始めた。


「お、温泉旅館とはこのお城の裏に沸いたような温泉を整備して提供する宿泊施設のことです。ほかの宿泊施設と違って、お客様は温泉への入浴やお食事などのおもてなしを求めていらっしゃるのですが――」


 う~ん、どうしたのだろう?

 加賀見さんが必死に力んでもさっきみたいな映像が浮かんでこない。


「スキルをまだうまく扱えていないようですね」


 クレイアの呟きが聞こえた。

 確かにさっきの発動も意図的なものではなかったし、ぶっつけ本番でお願いしてしまったのは俺のミスだな。


「話を聞く限りでは素晴らしいもののようだが、情報不足ですね。これでは魔界の方針を決定づける要因としては不十分かと思われます」


 クレイアが加賀見さんの話を事細かにメモに取りながら言い放つ。


「それに、これだけ整った施設はこの世界では耳にしたことが無い。異世界だとしても実現しているかどうかも怪しいものですな」


「し、しかしなクレイア! 俺は確かにこの目で――」


「魔王様! いくら魔王様の提案だとしても、我々幹部にも魔界と魔界の民を預かる責任があるのです。確たる勝算がない限り不用意によそ者の夢物語を信じるわけにはいかないのです!」


 うぅ、クレイアの言うことが正論過ぎて反論する隙が見つからない。


 でも、責任なら俺も感じている。

 このまま戦いが続けば民が危険にさらされるってのは本音の部分だし、平和に解決ができればそれに越したことは無い。


 魔物と人間は戦わなければならないなんて一体誰が決めたというのだろう。

 俺は無用な戦いで魔族やほかの種族が傷つくのなんて見たくないんだよ!

 そのためにここは――引くわけにはいかねぇんだよ!


「――あの!」


 会議室に声が響く。

 それは俺の声でも幹部たちの声でもなかった。


「ゆ、夢物語なんかじゃありません。私のいた世界ではたくさんのお客様が温泉旅館で心と体を癒していらっしゃいました。魔王さんはその光景を見て、私を信じてくださったんです!」


 加賀見さんは全身を震わせ、涙目になりながら叫んでいた。


「しかしね、この世界には君が見てきた光景はないのだよ。世界のどこにもないものを信じろと言われても無理な話ではないかね?」


 その通りだ。

 俺自身、彼女のスキルで見るまでは半信半疑の部分が多かった。


 だからこそ信じてほしい。

 俺が未来をかけると決めたもの。

 魔界の未来を救ってくれると信じたものを!


 俺が声を上げようとした時だった。

 震えていた彼女の手が光りを放ち、その光が会議室を包んだ。

 広がったのは先ほどの素晴らしい光景。

 俺が描く、魔界の未来だった。


 光が収まった時、幹部たちは皆そろって呆気に取られていた。

 まるで本当に夢でも見たかのような心地なのだろう。


「な、なぁマグナ。お前が目指すってのは今見たようなもんなのか?」


 リオンが目をこすりながら聞いてくる。


「す、すごいっすね。めっちゃ奇麗でしたわ」


「衣・食・住、全ての生の喜びがあった。まさに楽園のような――」


「ふむ、あのような建物なら要人の会議に使われてもおかしくはない」


「ウー ウー!」


 幹部たちの感触は上々のようだな。

 ――ただ一人を除いて


「なるほど――確かに素晴らしいものではあるようですね。しかし、まだ不安要素は多くあります。まずは……」


 クレイアはまだ攻略できないか。

 俺が身構えたその時だった。


「俺っちは賛成だな!」


 ブライだ。


「私もだ! 何事もやってみんとな!」


「私としても興味がありますな。私のアンデッド族もお役に立ちましょう」


「異論はない」


「ウー ガ―!」


 幹部たちが口をそろえて賛成してくれたのだ。


「ふぅ、これでは私だけが反対したところで無駄なようですね」


 クレイアはため息をつきながら口を閉じる。

 納得はしてくれていないようだが、計画を進めていく中で説得をしていこうと思う。

 加賀見さんとほかの幹部に感謝しつつ、俺の魔界城温泉旅館化計画は承認された。


 後に、この会議が魔界小学校の歴史の教科書に載る事になるのは先の話である。

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