第一話 勇者に負けて間欠泉!?
どうも~ROM-tです
今回お送りするのはコメディーでございます!
戦わずに平和なスローライフを送りたい新人魔王が異世界からやってきた老舗旅館の若女将と魔界に温泉を作っていく。
気楽な気持ちで読める作品となっております。
ぜひお楽しみを~!
荘厳華麗で大きな部屋の中で剣撃が幾度もぶつかり合っている。
対峙するのは黒と白の騎士。
勇者と魔王である。
今まさに人間と魔族の最終決戦が繰り広げられ、互いに全力を出し切って戦っていることは間違いない!
――はずなのだが
「ぐはぁ!」
勇者と魔王の剣が激突するたびに魔王は後ろに吹っ飛び、壁や柱に叩きつけられている。
「いい加減に諦めたらどうだ? 確かにお前の魔法は強力だが、身体能力と剣技には雲泥の差がある。このまま続けたとしてもお前の勝ち目はないぞ」
何度も吹き飛ばされボロボロになった魔王に対して気が引けたのか勇者がため息交じりに声をかける。
「フッ、魔王の心配とは余裕だな勇者よ。そんなくだらないことを考えている暇があるのならば……」
魔王は手にしている大剣を握り直し、勇者に再び斬りかかると――
「さっさと俺を倒して帰ってくれよぉぉぉぉ!」
魔王は絶叫した。
「――は? 聞き間違いか? お前、今なんと?」
「だぁかぁらぁ! 早く俺を叩きのめして帰れって言ってんだ! そうじゃないと俺の部下たちが納得してくんねぇんだよぉ!」
もはや子供の駄々っ子のように剣を振り回す魔王に勇者は困惑する。
これは魔王の策略か?とも疑った勇者だったが、魔王の攻撃は先ほどよりも稚拙になりいつでも勝負を決められる状況だ。
もしここで勇者が斬り込んだとしても魔王が対応できるとは到底思えないのである。
「望みどおりにしてやろう!」
「あ!」
その言葉と同時に勇者がありったけの力を込めた一撃を魔王に向けて叩き込んだ。
大きな爆炎とともに魔王が床に倒れ伏す。
動かなくなった魔王を見つめる勇者。
しかし、その顔は苦々しい。
「……腐っても魔王か」
勇者は魔王を暫しにらみつけると剣を収め、部屋を後にする。
かくしてこの決戦は勇者の完全勝利にて幕を閉じたのだった。
※
~10分後~
俺は勇者が去っていく足音が聞こえなくなったのを何度も確認しながらゆっくりと起き上がる。
ありったけの力で防御魔法を張ったというのに全身がきしむのを感じる。
「――ったく、勇者の奴。俺が最初から戦う気がないのをわかっていたくせに本気出しやがって」
俺は魔王――と言ってもそんなもの名ばかりだ。
俺の親父も爺さんも魔王だった訳だから血筋としては正統な後継者に違いはない。
だが、俺には魔王として致命的に欠けているものが二つある。
一つは先ほどの勇者との戦いでも露見してしまったが〝戦闘技術〟である。
俺は元々戦うことが好きではなかった。
親父が勇敢に戦う姿を見てもただ「危なっ!」としか感じず、自ら剣の腕や自己の肉体を鍛える努力をしてこなかったのであるが――
親父が前勇者との戦いで相打ちなんてしやがるからいきなり担ぎ出されちまったって訳だ。
まぁ、魔法系は役に立つと思ってまじめに習得していたし、計略や軍事のことに関しても十分にできていると思うから全く戦えないというわけではないのだが――
そんな俺に足りないもう一つのもの……
これこそが一番の問題であり、魔王としては完全に失格。
俺には〝野心〟というものが皆無なのである。
ぶっちゃけ、魔界でも持て余しているのに人間界なんて支配したところで何になるというのだろう?
むやみに領土を広げ、統治しなければならない民を増やしたところで俺にそのすべてを統括する術はない。
力での統治は全くいい方法だとは思えないし、何よりあれだ……面倒くさい!
俺はただスローライフを望む者。
大事をなさなくても、それなりに生きていければ良いんじゃなかろうかと真面目に考えている。
しかし、そんな俺のスローライフを阻む奴らが――
「魔王様ッ!」
結界の効果が切れ、閉ざされていたドアが開くと魔王軍の幹部たちのうち三名が部屋の中へとなだれ込んできた。
クレイア:高位悪魔
俺の右腕にして魔法の師匠でもある。
親父の代から魔界の執政を支える宰相。
男よりの見た目と性格だが本人曰く悪魔は性別不明とのこと。
リオン:獣人王
圧倒的な力とセンスで族長に登り詰めた女傑。
面倒見がよい姉御肌で周囲からの信頼も厚く、俺もよく相談に乗ってもらっている。
ブライ:竜人族
空中戦では右に出る者がいないほどの達人だが、性格はお調子者でムードメーカー。
一番気の合う飲み友達で三日に一度は飲みに誘われる。
シエラ:堕耳長族
冷徹で何物も寄せ付けない雰囲気を持つ女性。
人間に変身することができ、諜報活動を担ってくれているが、冗談が通じないため個人的には苦手なタイプである。
テイラー:死者の王
統率力が群を抜いて高く、現場での指揮を完璧にこなしてくれる頼れる存在なのだが、死者ということに多大なるコンプレックスを感じているため、食事・運動・睡眠に対しての執着が強いのが玉にキズ。
ディアモン:魔鉱人族(グランゴ―レム)
会話は出来ないが唸り声とジェスチャーで意図を伝えてくる。
ゴツイ見た目とは裏腹に性格は非常に素直で無邪気。一日観察したときは非常に癒された思い出がある。
以上の六名が俺を支えてくれている魔王軍六大幹部であり、俺に多大な期待をかけてしまっている連中なのだ。
勇者と真っ向勝負で俺が惨敗すれば少しは俺への期待も薄れるかと思って今回の勝負に身を投じたのだが・・
部屋に入ってきたのはクレイア、リオン、ブライの三名だった。
「ご無事で何よりです、魔王様。次に戦うときは必ずや勇者を打倒するように万全の準備を整えましょう」
クレイアが俺の身体をチェックしながらなんか言っているが、次なんて考えたくない。
「なぁ、手も足も出ずに惨敗した俺に言うか? 俺に勇者を倒すのは無理だと思うんだが――」
「何を弱気になってんすか魔王様! また、飲みながら愚痴聞きますから頑張りましょうや」
「そうだぞ! お前は私たちの上に立つ魔王なのだからもっと自信を持つが良い」
ブライとリオンも調子よく俺を励ますが、俺の気分は晴れない。
俺に野望が無いって知った幹部たちは失望してしまうだろう。
いくら俺が自己中でもガキの頃から一緒にいるこいつらを悲しませたくはない。
そこで考え抜いた末に実行したのがこの作戦だった。
やる気ではなく力が無かったのだとなれば少しはマシなのではと――
結果的に俺は生き残り、勇者は退散してくれた訳だが本来の目的が果たせていない以上、成功とは言えないな。
「他の幹部たちはどうしてる?」
「シエラは周囲の警戒。ディアモンは破壊された城塞の修復。総指揮はテイラーがとっておりますのでご安心を」
クレイアがそつなく答えてくれた。
やっぱり俺の部下たちは俺なんかよりよっぽど優秀だなと感心しつつ、申し訳なさが押し寄せてくる。
「そうか、ありがとう。ちょっと疲れたから部屋に戻らせてもらうよ。」
「お疲れでしたら、何かお飲み物でも部屋にお持ちしましょうか?」
「いや、このまま寝るからいいや。すまないな。」
俺はクレイアたちに挨拶をすると自室に戻る。
皆には寝るといったが、そんな余裕はない。
勇者に惨敗作戦が失敗したことで俺はかなり焦っていた。
惨敗してもダメとかどうすればいいのだろう?
早急に次の作戦を考えないといけない!
なるべく皆を傷つけずに俺への期待心を削らなければならない。
「とりあえず、時間を稼ぐか!」
俺は部屋に入るなり、着ていた魔王代々の鎧を脱いだ。
「親父や爺さんには悪いが、この鎧と大剣重すぎて使えないんだよな。まぁ、俺の体力が無いだけなんだけど――」
ぶつぶつと愚痴りながら鎧と大剣を持って窓から裏庭へ出る。
「鎧が無くなれば多少の時間は稼げるかもしれない。それに俺へのダメ認定が上がるかも!」
そう思い立った俺は裏庭に鎧を埋めることにしたのだ。
魔法を使おうかとも思ったが、爆発などを使うと周りにばれてしまう。
俺は自分にリジェネをかけると大剣を使い、裏庭の地面を掘りだした。
浅いと見つかってしまう危険があるためより深く掘り進む必要がある。
かつて勇者の聖剣と死闘を繰り広げたこの魔剣がスコップ代わりにされている状況を見たら親父とか泣きそうだな……とかも思ったが、俺はひたすらに剣で地面をえぐっていく。
どのくらいの時間が経っただろうか――
気づけば穴は俺の身長の20倍近くまで達していた。
「このくらいでいいかな?」
俺は手を止め、ふぅとため息をつく。
リジェネの影響で疲れは緩和されているが、元が少ないため結構辛い。
しかし、優秀な部下たちのことだ。
この程度の深さなら容易く見つけてしまうかもしれない。
俺は不安要素をなるべく減らすために、もうひと踏ん張りしようと気合を入れた。
そして時間を短縮するためにありったけの魔力を剣に込め、振り下ろしたその時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
足元からまるでディアモンが全力疾走しているような地響きが聞こえてきたかと思うと、穴の底に大きな亀裂が入っていく。
そして亀裂からは白い靄が次々と湧き出してくる。
「な、何だこりゃ? 何が起こって――!」
次の瞬間、俺は足元から噴き出してきたお湯に巻き込まれ、穴から弾き飛ばされた。
穴の近くに不時着し、呆然とする俺の目に次に飛び込んできたのは――
華やかな異国の服に身を包んだ人間の女性だった。
いかがだったでしょうか?
次回は魔王と女将のボーイミーツガールを描きたいと思います。
さぁ、魔界温泉はどのような発展を見せるのか?
魔王と勇者はどのような道を歩んでいくのか?
様々な物を取り入れながら発展していく魔界温泉をお楽しみに!